第一章・Jesus Christ Superstar 2ー①

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第一章・Jesus Christ Superstar 2ー①

「とにかくレイは、ニューヨーカーの中のニューヨーカーなんだ。野球ならヤンキース、アメフトならニューヨーク・ジャイアンツ、アイスホッケーならレンジャーズなんだよ。そりゃ、もうイタい位にコテコテなんだ」 ウルフは、レイを『演じる』為に、少しでも不自然さをなくそうと、ジェリーにレイの人となりを聞いていた。 だが聞いてはみたものの、まずその単語すら意味が分からない。 自分がいた頃の言語からは、想像を超える進化を遂げていて、何もかもが意味不明だった。 外の景色に至っては、ここはアメリカかと疑うような変貌ぶりだ。 事あるごとにいちいち質問しても、ジェリーはきちんと答えてくれた。 この時代に降りて来て、まだ1日も経っていないが、ウルフ既にあらゆる事に順応していた。 だが、どうやらこの体の本体のレイとは、全くそりが合わないのか、以前のように本体の人格を全て吸収し、完全に自分の物に出来たのと違って、違和感を覚えてしまう。 レイの体は、世代が進むにつれ、ヨーロッパの血を多く受け入れてきたが故に、ネイティブ・アメリカンの神聖な血が薄れているからかも知れない。 だが、同化出来ない事で、助かった面もある。 とにかく、現代のアメリカという所はややこしい。 以前のように、戦士は戦場で闘えば良いと言うものではなくなっていた。 仕事や人間関係や、あらゆるものが入り混じって、そのしがらみに皆が囚われて身動きが取れないような社会になっていた。 これは、戦場で闘うよりも困難かも知れないと、ウルフは思った。 「それでな、レイは近頃の子には珍しく純情なんだよ。家族思いだし、義理固いし、仕事も真面目だし。……言葉使いは、少し難があるんだけど」 「純情な割には、えらく年上の女を落としたんだな」 ウルフの言葉に、ジェリーも言葉を詰まらせた。 確かに、レイの純情な性質から考えれば、不釣り合いな恋人ではあった。 ミラは、そのトップモデルとしての功績や美貌を生かして、様々な有名人や著名人と浮き名を流し、華やかな人生を歩んでいた。 その北欧の血を引く色素の薄い髪の毛や、淡い緑の瞳は、魔性の女としてゴシップ誌を常に賑わせる。 だが、ミラと付き合った男達は必ずその世界で成功を収めていたので、彼女の品位が落ちる事はなかった。 そしてご多分に漏れず、レイも彼女の意中の男だと世間に公になり、瞬く間に男性トップモデルにのし上がったのである。
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