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第一章・Jesus Christ Superstar 2ー③
「アマンダ……」
「ジェリー!やっと捕まった!貴方、本当に仕事が忙しいの?休みもないなんて、ちょっとおかしくない?」
「仕事は本当に忙しかったんだよ。ゴメン。ファッションショーでパリに行ってたし」
「それでも電話位、くれたって良いんじゃない?」
アマンダは、苛立ちを隠す事なくジェリーに詰め寄った。
その燃えるような赤毛は、彼女の気性の激しさのままに、逆立つようですらあった。
近頃は、チャーミングである筈のソバカスも、ジェリーには愛しく感じられなくなっていた。
アマンダは、ジェリーが勤める事務所のすぐ近くのコーヒースタンドで働くウェイトレスだ。
仕事の合間に通うジェリーに声をかけて来たのはアマンダの方だった。
彼女はとにかく積極的で、声をかけられて3日も経たずに、ジェリーはベッドに引き摺り込まれた。
今までも女には押し切られる形でばかりでしか付き合ってきた事のないジェリーでも、ここまで強引な恋人は初めてだった。
忙しいのも相まって、アマンダになし崩し的に押され続けている状態だった。
「本当に忙しくてゴメン。必ず、休みには連絡するから」
「そう言って、貴方から連絡してきた事なんか一度もないじゃない!今日は、泊まっていくわよ。中に入らせて」
「ちょっ……、ちょっと待って。アマンダっ……」
引き留めるジェリーを振り切ってアマンダは部屋の中にずかずかと入って行った。
するとそこには、雑誌の表紙にもなっている美しい男が、ダイニングに座っていた。
「やだ!嘘っ!レイ・ブラックじゃない!……何で来てるって教えてくれなかったのよ、ジェリー!」
ジェリーは、アマンダの浮かれようを見てウンザリしていた。
アマンダがミーハーなのは分かっていたので、自分が誰の付き人をしているのかは言えなかった。
案の定、アマンダはウルフに磁石が引き寄せられるようにして近付いて行った。
「初めまして。私、アマンダっていうの。よろしくね」
アマンダは然り気無くボディタッチをしたように見せていたが、ウルフの肩を撫でるその手つきは、性的なものを感じさせるような妖しさがあった。
「アマンダ。レイは忙しくて最近、体調を崩してるから、俺が食生活を管理してるんだ。だから、しばらくは仕事に掛かりきりになるけど……」
「せっかくレイがいるんだから、飲みましょうよ。私を紹介してくれても良いでしょ?私、レイのお話が聞きたいわ」
レイの体の調子が悪いと聞いても、お構いなしのアマンダに、ジェリーは言葉を失くす。
すると、急にウルフは上半身を、テーブルに突っ伏した。
「ジェリー。どうしよう……吐きそうだ。……少し横になりたい」
「あ、あ、アマンダ!レイは具合が悪いみたいだから!悪いけど、今日は帰ってくれ」
「え?え?そしたら、私、良かったら看病して……」
「ゴメン!またな!」
ジェリーは、アマンダの腕を強引に引っ張り、追い出すようにして玄関の扉を閉めた。
外から何やら声がしていたが、それに構わず部屋に戻った。
「ゴメンな……ウルフ。気を使って、演技してくれたんだろ?」
「お前は、あの女を愛していないな。ジェリーの体から、あの女へ流れる感情は澱んでいる。そして、あの女の根底にあるものは『邪悪』だ。俺の中にいる大地の精霊が、拒絶する」
ジェリーはウルフこそ、精霊の化身のように見えた。
インディアンは自然崇拝から独自の精神文化を築き上げていた。
自然と共に生活し、自然と調和しながら、その恵みに感謝して信仰する。
ウルフは、インディアンの聖人とされるシャーマンであるメディスンマンに言われて現代に来ている。
その聖人と繋がるステッペンウルフの精神性もまた、穢れなく神聖なるものだった。
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