1.『おにぎりん』始動!!

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 沼田の声に小清水やまわりの避難者も笑顔でうなずいた。 「もう一個食べたくなる」、「そうだね。元気が出てくる」、「わかるー」と口々にいわれて公武の目元が赤くなる。「まだありますから是非どうぞ」と営業が声をかけると「じゃあ食べちゃう?」、「食べちゃおう」と明るい声がグランドに響いた。  楽しそうな笑い声を聞きながら公武が「柚月さん」と消え入りそうな声を出した。 「僕のおにぎりは、やっぱりまだ、柚月さんのおにぎりには到底およばないって思います」  ですが、と息を継ぐ。 「こうしてみなさんに喜んでいただけた。──一度にたくさんの人に届ける必要がある、今回みたいなときには有効だってわかりました。僕のやっていたことは、無駄じゃなかった。そう思えました」  公武はそっと繰り返す。無駄じゃ、なかった。「柚月さん」と公武はしっかりと柚月へ顔を向ける。 「それもずっと『おにぎりん』に付き合っていただいた柚月さんのおかげです。柚月さんがいなかったら、こうしてみなさんに喜んでいただけることもなかった。本当にありがとうございました」  胸が苦しくなる。この人は、いつだってこんなふうに謙虚で、いつもわたしにお礼をいってばかりだ。  だけど──。 「違います。わたしのおかげなんかじゃありません」 「え」 「公武さんがあきらめなかったからです。なんどもなんどもおにぎりを作って、うまくできなくてもがんばって。わたしはそれを見てきました。公武さんががんばっていたのを知っています。これは、公武さんががんばった成果です。すごいです」  公武が呆けたような顔になる。その公武へ満面の笑みを向ける。 「公武さん──よかったですね」  肩で大きく息を吸って公武はくしゃりと顔を崩す。そして答える。 「はい」    *  久しぶりに巌がやってきたのは、その翌朝だった。
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