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巌が「やっぱよ」としみじみとした声を出した。
「同じおにぎりロボットでもよ。箱に飯を入れて成型するやつと、人の手に似たもんで握るやつじゃあ、人の手に似たやつの方がうまそうに見えるよな。ただうまそうなだけじゃなくてワクワクする」
「本当ですか?」と公武が目を輝かせる。
「そういっていただきたくて、改良に改良を重ねてきました」
「なによりみんなが嬉しそうにしている。それが一番だよな」
公武と松前はホッとしたように頬を緩めた。巌は「よおし」と首を左右へ振ってストレッチをすると「おおい」と柚月へ手を振った。
「そろそろ戻るわ。柚月のにぎりめしも食えたしな」
えっ、と柚月はあわてて巌へ駆けよる。
「もういっちゃうの?」
「ひとりっきりにして悪いけどよ。阿寒もいるから心配ねえな」
「ねえ、本当にちゃんと寝てる? 無理しちゃ嫌だからね」
「ここで無茶しねえでいつするんだ、っていいてえところだが──」
巌は手を伸ばして柚月の頭を愛しそうに撫でた。
「わかっている。無茶はしねえよ」
地面が揺れる。慣れたとはいえ、ドキッとするほどやや大きめの地震だ。巌は顔をくしゃりと崩す。
「……いつまで地震が起きるんだとか、うんざりだとか、なんとかしてくれとか。そんなことばっかりいわれてもよ。できるわけねえだろうがなあ。俺が地震を起こしているんじゃねえっつうの」
うん、と柚月も目を潤ませる。「まったくよお」と巌は大きな笑みを浮かべた。
「人間ごときにできることなんて限られるんだっつうの。さらなる災害が起きたらどうするって、俺に責任なんてねえし、責任をとれるわけねえだろうが」
俺は、と巌は真っ直ぐに柚月を見る。
「お前の笑顔を見るために動いている。それだけだ。これはいつまで続くのかわかんねえ地震だ。それでもそれなりにお上が動けるように片をつけてくるからよ。そうしたら──一緒に家へ帰ろう」
「──うん」
柚月は涙で潤む瞳を父へ向けた。
*
午後の『おにぎりん』の炊き出しが終わったころだ。
なにやらサッポロ・サスティナブル・テクニクスの面々の様子が変だった。
『おにぎりん』のプログラム確認から操作一式をほかの社員全員がトレーニングしていたのだ。
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