4.正しいことだから──苦しいんだ

1/4
前へ
/119ページ
次へ

4.正しいことだから──苦しいんだ

 ──柚月、元気か?  ──ちゃんと飯、食ってるか?  ──って、知ってる。食ってるよな。  ──公武さんからメールをもらった。写真つきだった。おにぎりの写真。  ──めちゃくちゃうまそうでしょ。おれもいますぐそっちへいって、柚月のおにぎりを食いたくなった。この前のおにぎり、めちゃうまだったもんなあ。  ──そこの避難所とここの避難所ってどんだけ離れているのかな。チャリはパンクしたままだから歩きだとどれくらい時間がかかるかな。  ──なーんてさ、うそうそ。いかないから安心して。おれの方は、まだマズくてさ。いまここで両親のそばを離れたら、今度こそ関係を修復できなくなる。  ──避難所にいれば人目もあるから変なことをいってこない。この間に少しでもおれの気持ちを伝えなくちゃって思うんだけど、これがさ──。  ──実はさ。おれ、両親にまくしたてられているとき、頭の中が真っ白になるんだ。身体もこわばって声もうまく出なくなって、反論なんてとてもできない。返事だってさ。反射的にしているだけでさ。  ──そこから「自分の気持ちを伝える」までになるのって、はるかすぎる道のりだよ。  ──油断するとあっという間にくじけそうだ。もういっそ、関係修復なんて無茶でしょって叫びたくなる。  ──それでもいいかなとも思うけどさ。じゃあ、どうやってこれから生きていくのかとか思うとさ。きついしさ。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加