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そこまで読んで、うん、そうだね、と柚月は画面から視線をそらす。
高校生。未成年。
義務教育は終えたけれど、だからって覚悟もなく社会へ出るのはとても難しい。
親と折り合いが悪い。だから家を出る。
そのあとは? どこで暮らすの? 公武さんがいうような保護施設があるかもしれない。どういう手続きをすればいいの? 働くならどうすればいいの? しかもいまは災害時。いつもより難しいだろう。
ほうっと息をはく。わたしたちは本当にまだ子どもなんだなあ……。
ふと公武の言葉を思い出す。
──力になります。全力で支えます──。
鼻先が熱くなる。
そういってくれる人がいて、陽翔くんはどんなに心強かったかな。
目尻に浮いた涙をぬぐって視線を画面へ戻すと、『愚痴がいいたくてメッセージを送ったわけじゃないんだ』と続いていた。キリッと顔を引きしめたカニのイラストスタンプが続いている。
──公武さん、もうなんなの?
──おれのほうが本当にもうさ、泣きそうなんですけど。
なんのこと? と首をかしげる。
──おれの気持ちはめちゃくちゃわかってくれているのに。どうしてあの人、自分の気持ちをまーったくわかってないの。自分の気持ちっていうか……柚月の気持ちっつうか。
ドキッとする。わたしの気持ち?
──こんなこと、おれに書かせんなよってもんだけどさ。
な、な、なんの話?
──……あの人、いまだにおれと柚月の仲を気遣うんだぜ?
へ? と気持ちの芯がヒヤリとする。
──あの人の気持ちなんて、あの海の日の出来事だけで十分すぎるくらいわかったのに。それでもあの人は『君がここにいたらいいのに』とか『柚月さんの隣にいるのが僕ですみません』とか書いてくるんだよ。ばかかっていうの。
いくつか鼻息をあらくするカニのイラストスタンプが続いていた。それから──。
──柚月。
──がんばれよ。
さらに続くメッセージを見てハッとする。
──公武さん、柚月がいないと、きっと駄目になる。
──あの人の一生懸命ってさ。危ないところがあるだろ?
──真っ直ぐすぎて怖いくらいだ。いうこともやることも正しいからさ。誰も止められないしさ。
──けどさ。……正しいことってさ。だからこそ、鼻につくとかいって邪魔されたり傷つけられること、多いだろ?
あ、と眉が揺れる。
それは──うん。この避難所でもなんどか受けた。続く文面を読んで、さらに身につまされる。
──正しいことをやっているって思いがあるから、なにかトラブルがあっても途中で止められないし、誰かのせいにもできない。自分を責めるだけだ。
──きっと公武さん、いままで誰にもいえないことが山ほどあった気がするんだ。
──そうでなくちゃ、おれのことだってこんなに理解できないよ。身に覚えがあるからわかってくれるんだよ。気にしてくれるんだよ。なにがヤバくてなにが問題なのかもわかるんだ。
──そうだろ?
……うん。柚月は目を閉じる。
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