4.正しいことだから──苦しいんだ

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   *  そこまで読んで、うん、そうだね、と柚月は画面から視線をそらす。  高校生。未成年。  義務教育は終えたけれど、だからって覚悟もなく社会へ出るのはとても難しい。  親と折り合いが悪い。だから家を出る。  そのあとは? どこで暮らすの? 公武さんがいうような保護施設があるかもしれない。どういう手続きをすればいいの? 働くならどうすればいいの? しかもいまは災害時。いつもより難しいだろう。  ほうっと息をはく。わたしたちは本当にまだ子どもなんだなあ……。  ふと公武の言葉を思い出す。  ──力になります。全力で支えます──。  鼻先が熱くなる。  そういってくれる人がいて、陽翔くんはどんなに心強かったかな。  目尻に浮いた涙をぬぐって視線を画面へ戻すと、『愚痴がいいたくてメッセージを送ったわけじゃないんだ』と続いていた。キリッと顔を引きしめたカニのイラストスタンプが続いている。  ──公武さん、もうなんなの?  ──おれのほうが本当にもうさ、泣きそうなんですけど。  なんのこと? と首をかしげる。  ──おれの気持ちはめちゃくちゃわかってくれているのに。どうしてあの人、自分の気持ちをまーったくわかってないの。自分の気持ちっていうか……柚月の気持ちっつうか。  ドキッとする。わたしの気持ち?   ──こんなこと、おれに書かせんなよってもんだけどさ。  な、な、なんの話?  ──……あの人、いまだにおれと柚月の仲を気遣うんだぜ?   へ? と気持ちの芯がヒヤリとする。  ──あの人の気持ちなんて、あの海の日の出来事だけで十分すぎるくらいわかったのに。それでもあの人は『君がここにいたらいいのに』とか『柚月さんの隣にいるのが僕ですみません』とか書いてくるんだよ。ばかかっていうの。  いくつか鼻息をあらくするカニのイラストスタンプが続いていた。それから──。  ──柚月。  ──がんばれよ。  さらに続くメッセージを見てハッとする。  ──公武さん、柚月がいないと、きっと駄目になる。  ──あの人の一生懸命ってさ。危ないところがあるだろ?   ──真っ直ぐすぎて怖いくらいだ。いうこともやることも正しいからさ。誰も止められないしさ。  ──けどさ。……正しいことってさ。だからこそ、鼻につくとかいって邪魔されたり傷つけられること、多いだろ?  あ、と眉が揺れる。  それは──うん。この避難所でもなんどか受けた。続く文面を読んで、さらに身につまされる。  ──正しいことをやっているって思いがあるから、なにかトラブルがあっても途中で止められないし、誰かのせいにもできない。自分を責めるだけだ。  ──きっと公武さん、いままで誰にもいえないことが山ほどあった気がするんだ。  ──そうでなくちゃ、おれのことだってこんなに理解できないよ。身に覚えがあるからわかってくれるんだよ。気にしてくれるんだよ。なにがヤバくてなにが問題なのかもわかるんだ。  ──そうだろ?  ……うん。柚月は目を閉じる。
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