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本当に──公武さんは、正しい。
いつだって欲しい言葉をくれた。
陽翔くんが行方不明になったときも、海へ向かう車の中でも、それからこの避難所でもなんど公武さんの言葉に救われたか。
サンゴの話だって公武さんに打ち明けて背中を押してもらったから、わたしはお父さんへ伝えられた。
公武さんはどんなときも適当に話を流したりせず、しっかりと受け止めて、一緒になってあれこれ考えてくれる。どんな言葉もその場しのぎじゃない。心に響く、熱い思いだ。
どうしてそんな言葉をかけてくれるのか。
それってやっぱり、いままで自分がそうして欲しかったからじゃないかなあ。
自分がもらえなかった言葉で、もらえたら嬉しい言葉。いつか誰かに伝えたいなって思っていた言葉。公武さんのくれた言葉はそうやって準備していないと出てこない言葉ばかりだったもの。
そういう公武さんだから『おにぎりん』をあんなに素敵に動かせるんだろうけど。
……だけど──。
柚月の不安を代弁するように、陽翔のメッセージは続いている。
──なんだかさ。……泣きたくなるんだ。公武さんとメールのやり取りをしているとさ。この人、このまま倒れちゃうんじゃないかって怖くなる。
──だからさ。
──柚月が支えてやってくれよ。
目を見張る。
──頼むよ。
まばたきをするのも忘れてその文字に見入る。
鳥肌が立って身体が震えた。ポロリと涙がこぼれ落ちる。
陽翔くんが──どれだけの決意でこのメッセージをくれたのか。
公武さんの車の中でわたしのことを……好きっていってくれた陽翔くん。その陽翔くんにわたしは……ここまでいわせてしまった。わたしがハッキリしないから。
どうしてわたし、こんな中途半端な気持ちのままで二人に甘えていいって思ったんだろう。
お父さんが陽翔くんを気にかけてやれっていったから?
避難所でいつも公武さんがわたしを気にかけてくれるから?
それとも地震で大変だから許されると思った?
そんなの。唇を噛みしめる。なんの理由にもならない。
陽翔くんにここまでいってもらわないと、なにもしないって、わたし、どれだけズルいのよ。
顔をあげる。大きく息を吸う。必死で笑顔を作る。かっこ悪くてもなんでもいい。陽翔くんにここまでいわせて、なにもしないなんてある?
そっとスマートフォンをタップする。
陽翔への返信。あれこれ書き連ねるのはただ見苦しい言い訳に思えた。陽翔の全力のメッセージを真摯に受け止めた、その証となるように柚月は簡潔に入力をする。
──ありがとう。がんばる。
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