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そして迎えた放課後のホームルームだ。
行灯デザインのコンペがはじまった。
学校祭で全クラスが出品する行灯作り。数十年の歴史がある学校行事だ。
学祭最終日にはその行灯を担いで町内を練り歩く。
このため学校行事にとどまらず、近隣地域でも名物の行事だ。
作る行灯サイズ規定は普通乗用車並み。各種コンテストも設けてあり、入賞するためには作業最初のデザインが鍵となる。
陽翔の対抗馬は平家物語をモチーフとしたデザインだった。
毎年人気があるモチーフだ。
「カニなんてふざけた行灯を作ったら、諸先輩方に顔向けできねえ」という親兄姉や親戚が本校出身者のグループだ。その本校の伝統うんぬんを全面にあげた至極まっとうなプレゼンのあとだ。
迎えた陽翔はいきなり吠えた。
「みんな、祭りは好きかーッ」、「祭りとはなんだーッ」、「楽しまなくちゃ意味がないだろーッ」。
立て続けの陽翔の呼びかけに次第に「おーっ、祭りだーっ」と沸いていく。
「おれのデザインは伝統に囚われない自由がある」、「伝統を無視するんじゃない。伝統を踏まえたうえで、次世代の可能性を示すんだ」、「それができるのはおれたちだーッ」
おーっ、と大声援になる。
「なんだかITベンチャー企業の企業理念みたいだね。だけどなんでカニ?」と亜里沙がつぶやき、「ひょっとして」と仁奈が柚月へ顔を向けた。
「あんた陽翔くんになにかいった?」
ギクッとする。
二人は「ああ」と機敏に察し、「勢いだけでクラスの合意が得られるとも限らないし」と続けた。
けれども勢いというのは重要らしい。
面白い方へ一票と思うクラスメイトが多かったのか。
投票結果は陽翔のカニの圧勝だった。
「柚月っ、やったー。カニだぞ、カニっ」
沸きあがるクラスの中で陽翔はひたすら柚月へ手を振った。
陽翔ファン女子の視線が痛い。
柚月は居心地悪く身を縮めるばかりだった。
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