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「あなたにもう一度お会いしたいと思っていました。さきほどもお伝えしたとおり、少々ピンチな状況にありまして」
そして上着の内ポケットから名刺を取り出し柚月へ差し出した。
「阿寒公武といいます。サッポロ・サスティナブル・テクニクスという企業でAI事業プロジェクトチーム主任をしています」
AI? 食品関連っていっていなかったっけ?
首をかしげる柚月に構わず阿寒は続けた。
「お願いがあります。次の土曜か日曜に、僕の作ったおにぎりを食べていただけませんか? どうしてもまたあなたのご意見が聞きたいんです」
目を見張る柚月に「あ、えっと」と阿寒は我に返ったように声を小さくした。
「こんなおじさんと一緒におにぎりを食べるなんて嫌かもしれませんけど。ですがあの、やましい気持ちはありませんし、昨日の公園とかオープンな場所ならどうでしょうか」
柚月はしげしげと阿寒を見た。
「阿寒さんは、ご自分のことをおじさんだって思っていらっしゃるんですか?」
「へっ? い、いえ。会社では四十、五十代がほとんどで僕は最年少なので普段はそういう意識はまったくありません。ですが、あなたよりは十歳は年上で」
そこで阿寒は言葉を切る。言い訳がましいと思ったのか。深呼吸をすると阿寒は柚月へ丁寧に頭をさげた。
「よろしくお願いします。お父様にもご連絡をさせていただきます」
ただ、と阿寒は息を継ぐ。
「会ったばかりの僕があなたの連絡先をうかがうのは失礼です。お手数ですが、お父様のご了承を得られましたら、お渡しした名刺のメールアドレスへご連絡をいただけますでしょうか」
「そんなまどろっこしいことをしなくても。公園でおにぎりを食べるだけなんですよね? 父にいう必要なんて」
「いえ、不用心です。僕が怪しいやつだったらどうするんですか? 詐欺とか宗教勧誘かもしれない」
「宗教勧誘なんですか?」
「違います」
もう、と柚月は笑った。つられたように阿寒も笑い出す。
「じゃあ父へ連絡するように伝えます。天陣山の、えっと、先日と同じ斜面でいいですか? 日曜の方が都合がいいです。土曜は学祭の準備があるかもしれないので」
「学祭っ。そうかあ、本当に高校生なんですねえ」
阿寒は少し遠くを見るような眼差しになる。
「では日曜のお昼に天陣山でお会いできることを願っています」
そういって阿寒は丁寧に頭をさげた。
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