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毎年三リットル容器五個分作る。
青梅と氷砂糖は巌が自ら厳選して購入してくる気の入れようだ。
今年も先月中旬に「いいのがあったぞ」と巌が頬を染めて青梅を入手してきた。まさにそろそろ飲み頃だ。その父がいい顔をするだろうか。
うーん、とうなり声が出る。
「提供できるのは、がんばってひと瓶くらいかな。えっとね。シロップだけの量でいうと一リットルちょっと。足りる?」
「やったー」と拍手が起きる。そこへまたもや「え? なになに」と陽翔がやってきた。
「梅シロップ? 柚月が作った? 絶対おいしいでしょ」とはしゃいで、黒板方向からは「陽翔、帰ってこーい」と声がかかる。
「ああはいはい」と仁奈が割って入る。
「陽翔くんは戻って。これからほかのメニューを決めなくちゃいけないんだわ。メインメニューとサブメニューとドリンクメニューとテイクアウト可能メニュー、店内レイアウト、必要な飾りつけピックアップに担当グループを決めるの」
模擬店班全員で「無茶でしょうっ」と声を裏返した。
陽翔は「お邪魔しました」と逃げていく。
その後、細かいメニューを決めて残り時間でグループに分かれて作業をしているときだ。
「……というかさ」と仁奈がぼそりと柚月へ声を出した。
「わかりやすすぎて、いうのもどうかと思ったんだけどさ。あんたがあんまり普通にしているからどうかなって思って」
「うん? なにが?」
「いや、やっぱ、なんでもない」
「えー。またそれ? いってよ」
「ならいうよ? ──陽翔くんって、あんたのこと、好きでしょ」
へっ、とペンを落としそうになる。
「うん、めちゃ好きだよね」と亜里沙もうなずく。
「ちょっと、止めてよ」
そうだね、と亜里沙は声をひそめる。
「適当なことはいえないよね。陽翔くんって人気あるし、狙ってる女子もいるし。でも」
「うん、でも」と仁奈も柔らかい表情で柚月へささやいた。
「柚月にその気があるなら応援するよ?」
その気って、とこわばった顔になる。
だって、だって……個別にSNSをもらっても、ずっと他意はないって思おうとしてきた。陽翔くんは誰にでも人懐っこいからって。勘違いしちゃ駄目って。
なのにそれを二人に『そうじゃない』っていわれても。
そんな急に気持ちを切り替えるのは……。
「あー……ごめん。柚月はまだそういう気分じゃなかったか」
「お父さんラブだもんね」
「そんなことないけど」
「『けど』父、大事でしょ」、「ちょい悪オヤジなんでしょ?」と二人は茶化す。
「大学教授なんてカッコいいもんねえ。そりゃ自慢でもしょうがないよ」
「そんなことないって」
拳を握って主張すると、不意に阿寒の姿が目に浮かんだ。
真剣な顔でおにぎりに向き合う阿寒にスーパーで見かけたスーツ姿の阿寒だ。
え? なんで? 目をしばたたく。
だってまだ二回しか会っていないのに?
なんだか顔が熱くなり、柚月は浮かんだ阿寒を消すようにそっと顔の前で手を振った。
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