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柚月が弁当を広げると、巌と阿寒はそろって、「ほう」と声をあげる。
「お父さんは作っているのを見ていたでしょう?」
「詰め終わったのを見たのははじめてだ。んで? お前のは?」
急かされて阿寒は恐縮しつつ柚月の弁当箱の隣へプラスチックのケースに入ったおにぎりを並べた。
「なんだ、つまんねえなあ。普通にうまそうじゃん。食っていいの?」
「お願いします」と阿寒はうなずく。
巌は遠慮なく手を伸ばす。「お嬢様も」とうながされて「では」と柚月も手を伸ばす。
実にきれいな三角形のおにぎりだ。
コンビニのおにぎりみたい。型を使ったのかな?
そう思いつつはむっと頬張る。ほろりと米粒が口の中で崩れた。塊もなく一度にだ。なんていうか、水気の少ないリゾットみたい。
父へ視線を向けると「もう一個貰っていい?」とおにぎりへ手を伸ばしていた。
「こっちは塩昆布か。塩昆布ってうまいよな」
巌はわしわしと食べ進める。さらには柚月の作ったおにぎりにも手を伸ばし、「おかかのおにぎりかー」と目を細めて平らげていく。
空腹だというのは本当らしい。
楊枝に刺した磯辺とり天を頬張る巌に「い、いかがでしたか」と阿寒は緊張した声を出した。
「うん。柚月のほうが数十倍うまい」
「お父さん。さんざん食べてそのいい方は」
「世辞をいってどうするよ」
「お嬢様は?」
「あ、えっと……不思議な食感だなあって」
「おう。油でも入れたのか? コンビニのやつには入っているらしいけど入れすぎじゃねえか? 飯粒っつうのは適度に固まったほうが味わいが出るんだ。チャーハンじゃねえんだからよ。口ン中で一斉にバラけると気味が悪い」
阿寒の顔がこわばっていくのを見て、「いいすぎだから」と柚月は巌の前から弁当箱を取りあげた。「なにすんだよ」と巌はあわてる。
「これって品評会かなんかじゃねえのか? 事情はわかんねえけど、遠慮してどうする」
「事情を聞かなかったのはお父さんでしょう」
「いえ、ご指摘ありがとうございます。どんどんお願いします」
「ほらみろ」と巌は鼻を膨らませ、あれが駄目、これが駄目と続けていく。よくそんなに文句がいえるなと感心するほどだ。
とどめは「とにかく味わいがない。食べてもちっともホッとしない」との決めつけだ。
公武はがっくりとうなだれる。
「おっしゃるとおりです。僕もそう思います。お嬢様のおにぎりはとにかくホッとする。そういうおにぎりを目指したいんですが」
「……わかってんじゃねえか」
すっかり元気をなくした阿寒へ「阿寒さんも召しあがってください」と柚月は弁当箱を差し出した。
「ありがとうございます」と阿寒は弱々しくほほ笑んで、柚月のおにぎりをはむっと頬張る。
「ああ……この味わいです。ホッとします」
黙って甘い玉子焼きを食べていた巌が公武へ身を乗り出した。
「お前さ、この握り飯を作ったとき、なにを考えていた? 食べる相手のこととか考えていたか? そういうのが結構大事だって、よくウチのおふくろがいっていたぞ?」
え? と阿寒は動きを止める。
「それは──考え『させる』ところまでは至っていないというか、そういう発想がなかったというか」
「ずいぶんと他人事だな。てめえが作った飯だろうがよ」
「実は僕が作ったおにぎりではありません」
「はあ? だったら誰が」
「ロボットが作ったおにぎりです」
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