6.おにぎりは日本の文化だ!

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6.おにぎりは日本の文化だ!

 おにぎりロボットの歴史は古い。  大手電機メーカーをはじめベンチャー企業まで山ほどある。  工場用だけでなく、カフェなどの店先用のおにぎり製造機も登場している。おにぎりの価格が高い海外での進出もはじまっているという。  ──だけどさ、それって面白くないだろう?  そう大学院の研究室で大先輩がいい出した。  ──日本の文化であるおにぎり。それはまず、日本人をうならせてこそだろう? 違うか? 「いままでのおにぎりロボットにはない深層学習を組み込んだプログラムで握れば、日本人にも喜んでもらえるおにぎりを作れるんじゃないかと」  それも、と阿寒は意気込んで続ける。 「従来のようなボックスの中で握ったおにぎりではなく、人の手のかたちのマシンでおにぎりを握る。『目指せヒューマンスタイル』が僕たちのプロジェクトのキャッチコピーです」 「そこであんたの出番ってわけか。専門分野だもんな」 「調べてくださったのですか?」 「娘をわけのわからん男に会わせられるか」  阿寒は小さく頭をさげた。「だが」と巌は顎を撫でる。 「あんた、研究者としてあれだげ業績があったんだ。あんたを会社に誘ったのは、よっぽど断れねえ相手だったのか?」 「機械学習のイロハを教えてくださった方です。僕は研究者ではありましたが商用開発にはまったくの素人で。試行錯誤に明け暮れる毎日です」  ふうん、と巌は低く鼻を鳴らす。よくわからないけれど、そっか、と柚月はあらためて阿寒のおにぎりを見た。 「先週のおにぎりはもっと固かったんですか?」 「え? ああはい。今回のおにぎりは前回の半分程度のキログラム重で握りました」  キログラム重。握力の単位だ。 「そっか。ロボットが握るために数値の入力が必要だったんですね。それに前のは転がっても崩れないくらいに硬かったんですね」  柚月が感心していると、「よし、わかった」と巌が両手で自分の膝を叩いた。 「柚月、お前、しっかり手伝ってやれ」 「へ? いいの?」 「ありがとうございますっ」 「ただし柚月に妙な真似をするなよ。二人で会うのは公共の場だ。線引きはきっちりしろ。いいな」 「もちろんです」 「それから相談会があったあと、必ず俺へレポートを出せ。メールでいい。企業機密もあるだろうから、そのへんは濁していい。だけど手は抜くな」 「はい」 「ついでに柚月の様子も加えろ。元気があるとかないとか、顔色がいつもとどう違うかとか」 「お父さん、それレポートじゃないから。父愛が暴走しているから」 「いいじゃねえかよ。毎回ボイスレコーダー使ってほしいくらいだわー」と巌は甘えた声を出す。
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