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おお、と公武はようやく明るい顔をする。
「どんなことをするんですか?」
「全学年クラスごとに行灯を作って町内を練り歩くんです」
「行灯ってロウソクをともす照明器具のあれですか? 町内を練り歩くとは? みんなで手に持って歩くんですか?」
「手に持つというより担ぎます。大型乗用車くらいのサイズのやつを作るんです」
「そりゃすごい」
「ああいえ、わたしは模擬店の甘味処の担当で、祖母直伝の梅シロップを使った白玉団子を出すんです」
「いいですねえ」と公武の眼差しが柔らかくなる。「そうだ」と柚月はサコッシュの中をさぐる。
「よかったらいらしてください。最終日が一般公開日なんです。これ、チケットです」
「えっ。高校生の中に僕が入れるでしょうか」
「わたしだって高校生です。公武さん、普通に接してくださっているじゃないですか」
「それはそうですけど──」
「お時間があったらで。無理なさらないでくださいね」
はあ、とうなずき公武はしげしげと学祭のチケットを眺めた。
「そうかあ。学祭かあ。……準備期間が一番楽しいですよね」
公武はほんのつかの間眉を歪める。切なげで苦しそうでありながら懐かしそうな顔つきだ。
そして泣きそうな笑顔になって続けた。
「大変でしょうが、がんばってください。いましかできないことですから」
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