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3.学祭は絶好の──
学祭の甘味処の名前は『カニの愛した白玉はいかがカニ?』。
陽翔たちの行灯班が完成させた行灯『カニカニ合戦』とのコラボ店名だ。
初日から大好評で、オープン三十分で階段近くまで行列ができるほどだ。グランドで行われている全クラス対抗の行灯審査を見にいく余裕もない。
「柚月―、梅シロップの白玉団子カップを三つ」
「了解。梅シロップの白玉団子カップはこれで完売でーす」
はやっ、と模擬店班メンバーだけでなく、並んでいる生徒たちも声を裏返す。
「みたらしやきな粉もおいしいですよー」と仁奈が声をかけ、「じゃあ、あたしはきな粉のカップ白玉」、「おれはみたらしのカップ白玉で」と注文が飛ぶ。
「この容器も渋くてかっこいいね」
「紙なんだって。SDGsだって。こういうの、いいよね」
「ストローもだって。私はプラスチックよりこっちのほうが口当たりがよくて好きだなあ」
ピックとスプーン、それにドリンク容器も紙だ。OBの企業が開発した商品で、学祭で使ってほしいと寄付されたものだ。
「クーラーボックスも大量の氷もぜんぶOBの寄付だものね。持つべきはOBだねえ」
仁奈の声にうなずきながら柚月は抹茶ラテをセットする。
そこへ陽翔が駆けこんできた。行灯の審査結果が出たらしい。
「うちのカニ、準グランプリっ」
わあっ、と店内に歓声があがる。
「やった。がんばったもんね」、「あのカニの完成度はヤバいわ」、「でもなんでカニ?」とそこかしこではしゃいだ声があがった。さすがにグランプリは三年生とのことだ。陽翔は上気した顔で「柚月、柚月」と迫ってくる。
「お祝いに杏仁豆腐クラッシュ梅ゼリー乗せをくれよ」
「あー、残念。売り切れです」
「なーんだとーっ。おれはなんのためにがんばっていたんだよおっ」
身もだえる陽翔を「明日も作るから」と慰めたけれど、仁奈は容赦がなかった。
「陽翔くんもちゃんと並んで買ってね」
「えー? クラス特権とかないわけ?」
「そんなことをやっていたら、ほかのクラスの人が買えなくなるでしょう」
「そんなあ」と陽翔はさらに身もだえる。
仁奈が強い姿勢をとおすだけあって翌日も梅シロップシリーズは大人気。
あっという間に完売だ。
陽翔は開店前から並んでなんとか杏仁豆腐クラッシュ梅ゼリー乗せを手に入れた。一口ごとに「うめえよおー」と声をあげ、「お前、うるさいよ」と買えなかったクラスメイトから頭を小突かれていた。
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