4.ちょっとちょっと──誰?

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 廊下に立って公武と顔を見合わせる。そしてどちらからともなくプッと噴き出した。 「いいお友だちですね」 「はい」とうなずく。  胸がじわりとあたたかくなる。二人のことを騒がしい女子高生ではなく、わたしに気を遣っているってわかってくれた。それが嬉しい。  どちらからともなく歩き出して「そういえば」と公武が声を出した。 「さっき地震がありましたね。結構大きかった。大丈夫でしたか?」 「驚きました。でもどこも被害は出ていないみたい。最近、地震が多いので父がピリピリしています」 「ご専門でいらっしゃるから。僕はまったくの門外漢なので、ただ揺れたなとしか思えませんけれど、乙部先生はそれどころじゃないですよね」 「父にいわせれば『地震は防げない、ただ備えるだけのもの』らしいです」 「なるほど。まったくおっしゃるとおりです」と感じ入っている。  そんな公武と柚月の周りを生徒たちが笑いながら過ぎていく。公武はまぶしそうに目を細めた。 「高校に入るのは十年ぶりくらいです。共学の高校ってこんな感じなんですねえ」 「男子校だったんですか?」 「中学からの一貫校でして。そりゃあもう、むさくるしいばかりです。大学も周囲はほぼ男子でしたから、こういうのはとても新鮮です」  いいながら公武は視線を窓の外へ向けた。  グランドにはズラリと行灯が並んでいる。  最終日の今日は行灯を担いで町内を一周する『町内行列』がある。その準備だ。 「全クラスの行灯で行列をするんです。行灯の中に電球も灯すんですよ。まだ日はありますが見ごたえがあります。楽しんでいただけるはず」 「いいですねえ。柚月さんのクラスの行灯はどれですか?」 「あのカニのやつです。準グランプリを取ったんですよ」 「そりゃすごい」と公武は目を丸くする。 「ちょっといってみますか?」とグランドへ出る。間近で行灯を見て公武は「おお」と声をあげた。  カニカニ合戦というふざけたネーミングとはかけ離れて、リアルな巨大な二匹のカニが取っ組み合っているデザインだ。その脚元に小さい猿が群がっている。  カニのデザインを反対していたクラスメイトも仕上がりを目にして「これなら弁慶にも負けないな」と笑みを浮かべたらしかった。 「いまにもカニが動き出しそうだ。ほかの行灯もどれも本格的だなあ」  世辞ではなく、公武は心底感心したように首を巡らした。 「行灯行列が終わって片づけをしてから帰宅ですか?」 「教室の片付けもあるので夜八時近くになっちゃうかも」 「そりゃ大変だ。乙部先生が迎えにきてくださるんですか?」 「父は文科省の視察があって。終わりの時間もわからないらしくて。学祭へくるつもりでいたので朝から大荒れでした」  なるほど、と笑って公武は「だったら」と続けた。 「僕が柚月さんをおうちまで送ります」
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