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「えっ? いえそんなご迷惑をおかけできません」
「僕が心配です」
公武は表情を引きしめて断言した。本気で心配してくれている顔だった。胸が苦しくなる。
「……遅くなっちゃいますよ?」
「大丈夫です」
「じゃあ……お願いできますか?」
公武は「もちろんです」と力強くうなずいた。目尻が大きくさがる。やっぱり公武さんの笑顔を見るとホッとする。
それから時間まであれこれ校内を案内して回った。
教室校舎へ入ってお化け屋敷を回り、クレープ屋でクリームチーズとはちみつのクレープを頬張り、体育館でライブを見たり図書館を覗いたりだ。
天陣山でおにぎりを食べているときも思ったけれど、公武と一緒だとあっという間に時間がすぎる。
もう少しだけ、と廊下を進んでいると模擬店を片づけているクラスに気づいた。
「もうそんな時間? しまった。戻らなくちゃ」
「すみません。すっかりお引き止めして」
「公武さんのせいじゃありません。でもここで失礼して片づけにいきますね」
「校舎の外でお待ちしています。安心してゆっくり片づけをしてください」
はい、と頭をさげて公武へ背を向ける。
「遅くなってごめんー」と教室へ飛び込む。すぐに「本当だよ。遅いぞー」と仁奈と亜里沙の声が飛んできた。
見ると教室の片づけはほとんど終わっていた。あとは机を戻すくらいだ。
「あー……役立たずでごめんなさい」
「冗談だよ。ゆっくりしろっていったのはウチらだから。で? 楽しめた?」
うん、と大きくうなずくと「よかった」、「よしよし」と二人に頭を撫でられた。
「二人とも機嫌がいいのね。なにかあった?」
へっ、と二人そろって声を裏返す。
「いやあの」、「そうかな」としどろもどろになり、視線を合わせて「ひょっとして亜里沙も?」、「仁奈も? あら、おめでとう」と驚いていた。
「──またわたしだけのけ者?」
「ああごめん。そうじゃなくて」、「うん、そうじゃなくて」と二人が口々に、実は、といいかけたところだった。
勢いよく陽翔が教室へ駆け込んできた。
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