5.さっきの誰? ……お兄さん?

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5.さっきの誰? ……お兄さん?

 陽翔の顔を見て仁奈が「わあ」と声をあげた。 「陽翔くん、すごいねー。それはいったいなに?」  陽翔はジャージにクラスTシャツ姿。髪はワックスで逆立っている。顔にもペイントがしてあった。  険しい形相だった陽翔は一変「すごいだろう?」と笑みになる。 「カニなんだよ。頬のペイントはカニの触覚。髪は親爪をイメージしているんだ」 「カニに触覚なんてあったっけ」 「タラバガニとかめちゃ長いのあるっしょ」 「あー、うちはタラバより毛ガニ派だから」、「ウチもー」と仁奈と亜里沙は声をそろえる。 「えー、なんだよ」といいかけた陽翔は「そうじゃなくて」と柚月へ詰めよった。 「あーもー、やっと見つけたよ。捜しまくったでしょ。行灯のそばまできたなら、ちゃんと行列が終わるまでいてくれよ」  へ? と目を丸くする。 「どうしてそばまでいったことを知ってるの? なにか頼まれていたっけ?」 「いやあの」と口ごもる陽翔へ「そうよ、行列だよ」と仁奈が割って入った。 「行列って三十分くらいはかかるもんでしょ。もう終わったの?」 「だから、途中で柚月がいないのに気づいて戻ってきたんだよ」 「戻ってきたっ? ちょっと待って。陽翔くん、行灯班のリーダーでしょ。リーダーなしでほかのメンバーは行列してるってこと?」 「よく間違われるけど、おれはデザイン担当でリーダーじゃない」 「そうだったのっ?」と柚月たちは声を裏返した。 「だとしても」と仁奈が気色ばんで続ける。 「最後の最後で陽翔くんがいないのってあんまりでしょ。みんなそろっての晴れ舞台ってもんじゃないの?」 「あ、ま、そうなんだけど」 「ここの片づけがあるから我慢してるけど、できることなら私たちも参加したいくらいなんだよ。それなのにどういうことよっ」 「仁奈、落ち着け。おれは別に──」という陽翔の声を聞きながら柚月は青ざめる。  そうまでして陽翔くんが行列を抜けてきた。わたしがいなかったから。それって。 「……わたし、それだけ大切な頼まれごとをしていたのよね。それを忘れていたって。ごめんなさい。すぐにいく。グランドでいい?」  陽翔の答えを待たずに柚月は教室を飛び出した。 「いやあんた、なにも頼まれてないからーっ」と仁奈が叫んでいたけれど、とにかくいってみないことには気持ちがおさまらない。
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