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気づかないふりをしていたけど、本当はわたし……陽翔くんの気持ちに気づいてる。
だって。
なんとも思っていない相手に公武さんとの関係を真顔で問い詰めたりしない。
ただのクラスメイトに毎日あんなに声をかけてくることなんてないし、個人アカウントへメッセージを送ってくることもない。
それなのにわたしは陽翔くんを傷つけるようなことばかりしている。さっきなんて八つ当たりまでした。……最低だ。
足取り重く行灯集合場所へ着くと、ちょうどクラスの行灯が戻ってきたところだった。
行灯班は「へ? 柚月? なんで?」と驚きつつも「助かるー」とあれこれ手伝いを頼んできた。
どうもなにかを頼まれていたのは勘違いだと気づいたものの、陽翔への負い目でそんなことはどうでもよくなっていた。
ひといき作業をすませて教室へ戻ると、仁奈と亜里沙が駆けよってきた。
「……陽翔くんとなにかあった?」
「ひどい顔をしてるよ?」
思わず涙目を向ける。
「わたし──どうしたらいいんだろう」
震えた声が出た。口元へ手を当てると仁奈と亜里沙が肩を抱いてくれた。
「ゆっくりでいいから教えて? なにがあったの?」と心配そうな声をかけてくれる。鼻をすすって、あのね、と声を出そうとした。
ガラッと教室のドアが開いたのはそのときだ。
級長と学祭委員、それに担任教諭が入ってきた。
学祭委員が真っ赤な顔で吠える。
「模擬店賞、ウチの甘味処『カニの愛した白玉はいかがカニ?』が受賞しましたっ」
わあっ、と耳が痛くなるほどの歓声があがる。
模擬店メンバーが仁奈へ抱きつき、「柚月、やったーっ」と手を取られた。
「柚月の梅シロップ、最高だったからー」、「抹茶白玉もおいしかったもんねー」、「ウチの行列、やばかったし」とクラスメイトは口々にまくし立てた。
柚月を気づかって仁奈と亜里沙は戸惑った顔をしていたものの、次第に感極まった顔つきになっていく。
「よかったー」、「がんばったもんねー」と柚月も泣き笑いになった。
鼻をすすって二人の耳元で声を出す。
「……心配してくれてありがとう。大丈夫。自分でちゃんと考える。でも、なんとかできなかったら相談に乗ってくれる?」
「もちろんだよ」
熱気の中で二人は力強く柚月へうなずいた。
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