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「上司のいうこともわかります。そういうあいまいな味はキャッチコピーをつけにくい。夏ですし、濃い味付けが求められます。塩味を強くですね。そのうえで、柚月さんの味わいも譲りたくないんです」
「大変そう」とほうっと息をはく。
「柚月さんのおにぎりに出会ってしまいましたから」と公武は笑い、「それでこういうのを作りました」と別の容器を差し出した。
「さきほどのものより、さらに塩味を利かせたものと、柚月さんのテイストを濃くしたものの二種類を作りました。試していただけますか?」
容器をのぞき込む。見た目はさほど変わりはない。二種類のおにぎりを交互に頬張る。……困った。違いがわからない。
眉間にしわをよせていると「駄目でしたか」と公武は肩を落とす。
「わたしの握るものと比べるのなら、お伝えできることがあります」
「そ、それは?」
「公武さんがおっしゃるように、わたしのおにぎりはふんわり握るのが特徴です。それでは物足りないと上司の方がおっしゃるなら具の量を増やすのはどうでしょう」
柚月は最初の容器を手に取る。
「最初にいただいたおにぎり、塩昆布がたっぷり入っていて楽しかった。それをより強調するのはどうですか? わたしはおかずも作るのでおにぎりの具のボリュームに気を配りませんでしたが、おにぎりだけで満足できるたっぷりな具にするのはどうでしょう」
「確かに。柚月さんに近いふわっとしたおにぎりにたっぷりの具材だったらメリハリがあっていいですねえ」
「ああでも、コンビニのおにぎりでもたっぷり具材のものがありますね。新鮮味にかけちゃうかなあ」
いいえ、と公武は大きく首を振る。
「基本的に米の握り方が違うので問題ありません。柚月さんの握り方に近いようにふんわりと握る技術力があるのがウチの強みなんです」
しかも、と公武は誇らしそうに続ける。
「再生可能エネルギーを使ってです」
「普通の電源とかがいらないってことですか?」
「ソーラーパネルからの太陽光発電やモバイル式の風力発電も対応可能なんです。パワフルなモバイル蓄電池も開発しているんですよ」
「ロボットだけじゃないんですねえ」
「とはいえ、技術力はあっても僕が使いこなせていないので、柚月さんのおにぎりにはまだまだ程遠いわけですが──」
うなだれた公武の腹が、ぐうう、と鳴った。
「すみません」と顔を赤らめる公武の声に、柚月も「すみません」と声を乗せた。
「わたしばっかりいただいていました。公武さんも召しあがってください」
「まだ大丈夫で──」
「今日のお弁当は甘―い玉子焼きにチーズハンバーグ、レンコンのきんぴらにブロッコリーのおかか和え。おにぎりもいくつか握りました。デザートは梅シロップ白玉です」
「いただきます」
即答する公武をクスクスと笑う。
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