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7.なあなあ柚月、メノウのとれる海岸へいこうよ
怒涛の定期テストを終えて柚月はホッと息をはいた。
公武のおかげで物理もなんとかこなすことができた。
チラリと前を見る。
黒板近くで陽翔が友だちとはしゃいだ声を出している。柚月の視線に気づいて笑顔で手を振ってくる。学祭のことなどなかったようにいつもどおりだ。それはきっと陽翔なりの優しさなのだろう。
──だからって、わたしまでいままでと変わらずに接したら、ますます陽翔くんを傷つけちゃうわよね。
柚月は自重してそっとほほ笑み返すにとどめた。
その柚月へ「はい、進路調査書だって」と仁奈が用紙を差し出した。
「高二でもぼやぼやするなってことかな」と亜里沙も用紙を手にしていた。仁奈が続ける。
「柚月、どこにするの?」
「……考えているところはあるんだけど」
「お父さんのところにすればいいでしょ。地質学だっけ? とりあえず北海道の大学だったら総合入試の理系?」
「いやよ。絶対に落ちられないでしょ」
「確かに」と二人は笑う。
「仁奈は医学部? 亜里沙は?」
「大阪の大学の看護学部かなあ」
へ? と柚月は声を裏返す。
「亜里沙、大阪へいっちゃうのっ?」
「柚月だって道外でもいいんだよ?」、「そうだよ、海外でもいいんだし」と二人にけしかけられて「そうなんだけど」と歯切れが悪くなる。
「ひょっとして本当に道外で海に関する研究がやりたいとか?」
「そ、そんなこと、思っていないわよ」
「……思っていたんだ」
「でもやっぱり──海は駄目だし」
そっか、と二人も声を小さくする。
なんでもないような顔を作ってあらためて進路希望調査書を見る。
進路かあ。どうしようかなあ。今度のおにぎり会のときに公武さんへ相談してみようかなあ。迷惑かなあ。
ところがだ。
土日のどちらかでおにぎり会をやるものとばかり思っていたけれど、「次回のおにぎり会は来週にしていただけませんか」と公武から連絡が入った。別件の仕事でどうにも抜けられないという。
「もちろん構いません」と返信をしながら、なんだか身体の力が抜けていく。
「人に頼らず進路は自分でちゃんと考えろってことよね」
ほうっと息をはく。
そっか。今週は公武さんに会えないのか。
自分でも驚くほど残念だった。
翌週になるとテストの返却がはじまった。
自己採点でだいたい予想はしているものの、現実を目の当たりにしてクラス全体がざわついていく。
陽翔もそのひとりで、テストが戻るたびに「柚月はどうだった?」と絡むありさまだ。いつもどおりの光景なのだが──。
それに眞帆の視線が加わった。
学祭で陽翔へ告白をしていたらしい例の女子だ。
その眞帆が、陽翔が柚月へ絡むたびに射るような視線を向けてくる。
それにたまらず陽翔へ生返事をすると「なんだよ柚月、つれなさすぎでしょ」と陽翔はますます絡んでくる。
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