7.なあなあ柚月、メノウのとれる海岸へいこうよ

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 不意に仁奈が耳元でささやいた。 「『可哀そう、申し訳ないな』なんて思う必要はないよ」 「へっ?」 「柚月はなんにも悪くないから。陽翔くんに同情する必要はないってこと」 「そうそう。同情と愛情を勘違いしないで、柚月は自分が一番大切だって思う人と一緒にいたらいいんだよ」  亜里沙の言葉に「……わたしは」と口ごもると仁奈が柚月の肩へ手をまわしてきた。 「あわてる必要はないし、誰かに気兼ねすることもないよ。気持ちはゆっくり育てていけばいいんだよ」  うなずいた亜里沙が「実はさ」と小声で続けた。 「これは学祭のときにいいかけて、結局いわなかったことなんだけどさー」  そうだ、と顔を跳ねあげた。学祭で地震にあう前に二人がいいかけていたことがあった。 「学祭前からかな。眞帆からあんたと陽翔くんのことをあれこれ探りをいれられていたのよ」 「学祭のあともね」と仁奈が加える。 「あたしたちからあんたに陽翔くんを振るようにいってくれとかなんとかさ。もっと勝手なこともいわれたわ。もちろん断ったら、いろいろと嫌がらせをしてくれていたわけ」  嫌がらせ? と息をのむ。 「──ぜんぜん気づかなかった。ごめん。わたしはなにもいわれなかったから」 「あんたが謝ることじゃないでしょ。それに、あんたって計り知れないところがあるからね。あの子も怖くて声をかけられなかったんでしょ」  えー、と声をあげると、「それにさ」と仁奈は声を落とした。 「眞帆が学祭で陽翔くんを押しとおして彼女になったのならさ。彼女がいるのにあんたにいいよる陽翔くんが悪いわけで、眞帆に同情もしていたんだけど」 「でも彼女じゃないでしょ。ただの嫌がらせでしょ。腹立つわー」と亜里沙も鼻息をあらくする。    そんなことがあったのか。わたし、知らないところで二人に守られていたんだなあ。「ありがとう」と声が震える。 「それで? 話ってそれだけ? ほかにもいいかけていたことがあったわよね。それは?」  ああ、と二人とも一変して照れた顔になる。「えっと、それはですね」とはにかみながら亜里沙が口を開いた。 「あたしたち、彼氏ができたんだー。部活関係でね。仁奈は先輩であたしは後輩」 「なにそれ、聞いてない」 「照れくさくてですね」 「もうなんなの。おめでとうー」と柚月は二人へ抱きついた。「そういうわけだから」と仁奈がしんみりとした声を出す。 「私たち、あんたにも幸せになってもらいたいのよ。陽翔くんであれ、公武氏であれ」 「は? えっと、その」 「だから急がなくてもいいんだよ、ちゃんと自分のことを考えて選ぶんだよーって話だよ」  わかった? と二人して顔をのぞき込んできた。  二人の気持ちが嬉しくて、柚月は「うん」と力強くうなずいた。
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