7.なあなあ柚月、メノウのとれる海岸へいこうよ

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   *  そして迎えた土曜日。  ようやく公武とのおにぎり会だ。  巌は今日も不在だ。学生の野外調査の付き添いだった。  これは春先から予定に入っていたので「なんだってお前らはそんなにちょくちょく研究会するんだよ」と巌は柚月へ八つ当たりをして出かけていった。  公武は相変わらず早くきていたようで、天陣山の斜面で柚月へ丁寧に頭をさげる。 「先週は大変失礼しました。蓄電池チームから制御プログラムの微調整を急遽頼まれまして。納期ギリギリとのことで三日くらいほぼ徹夜で過ごしていました」 「そんなに? 大変でしたねえ」 「柚月さんにおにぎりを見ていただけなくて大変残念でした。その思いをぶつけて今回はこちらをお持ちしました」  見せられたのは大きなトッピング具材が乗ったおにぎりだった。おにぎり自体もサイズが大きめだ。 「どうぞ」とうながされてひと口頬張る。中にもタラコがたっぷりと入っていた。 「これは食べごたえがありますねえ。おいしい」 「よかった。社内でも好評なんです」  ホッとしたように公武は目尻をさげる。 「僕の目指すふんわりおにぎりについても、だんだん理解を得られるようになってきまして、あともうひといきで社長というか専務の試食にまでこぎつけそうです」 「やっぱり最後は専務さんの判断なんですか? 専務さんってどんな方なんですか?」 「僕をこの会社へ誘ってくださったかたです」 「専務さんだったんですか」  大変な恩師であるとは聞いていた。公武さんは義理堅そうだもの。そういう人の誘いなら断れないだろうなあ。  そう思ってお茶をすすったときだった。 「あれ?」  サコッシュ中のスマートフォンが振動した。  一回ではない。二回三回、いや、止まらない。  あわててスマートフォンを取り出し表示させる。 「ええっ?」  そこに表示されていた未読メッセージ数は百近く。  クラスグループのSNSだ。それとは別に仁奈と亜里沙とのグループアカウントからもメッセージがあった。  それを見て目を見張る。  ──陽翔くんが行方不明なんだって。  
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