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1.──あんたのためかも
どういうこと? なにが起きているの?
仁奈と亜里沙からは次々にメッセージが入る。
『クラスのメッセージは読まなくていいよ。混乱するから』、『ちょっと厄介なことになりそうだから、柚月はクラスのに返信しないで』と同じような文面が届く。
返答をするより早く次のメッセージが入る。自分のどんくささに腹が立つ。返答ができずに苛立っていると、『大丈夫だよ』と亜里沙がメッセージをくれた。
『既読マークがついてる。それで柚月が見たのはわかる。無視しているなんて思ってない。ゆっくり入力してくれればいいよ』
励ますようなスタンプが続いている。ホッと息を吐き『ありがとう』と入力する。
それから仁奈がクラスアカウントの大量のメッセージをわかりやすくまとめてくれた。
事のはじまりは陽翔が模擬試験会場へ現れなかったことだ。
メールをしてもSNSメッセージを送っても通話をしても返答がない。海いきの話は陽翔が模擬試験のため日をあらためることになっていた。
ほかのトラブルに巻き込まれているかもしれないけれど、ひょっとしたらやっぱり海へいったのかもしれない。どうしたものかと陽翔のグループが騒いでいた。
自宅へは連絡してみなかった。「親に知られたくないなにかをしているかもしれない。大げさにして陽翔が親に問い詰められるのはマズいから」というグループ内の暗黙の配慮があったからだ。
それを眞帆がぶち破った。
「自宅へ連絡してみれば?」といい出したのだ。
『故意かどうかはわかんないよ。単純に事故に遭っているとか病気かもって心配したのかもしれない。陽翔くんが風邪で寝込んでいればよかったんだろうけど──自宅にいなかったんだよね』
結果として陽翔が模擬試験をさぼっていることが両親にバレた。
そして両親は激怒した。
『その剣幕に押されて眞帆がつい、そういえば海へいくとかなんとか、って漏らしちゃうくらいだったって。これは故意かもしれないけどね』
自分へなびかない陽翔への当てつけだ。事態に困惑していると、仁奈と亜里沙のグループアカウントから通話が入った。仁奈だ。
『入力しているともどかしいから、直接話すわ。──それから陽翔くんの親が暴走したのよ』
陽翔の両親の剣幕におびえた眞帆が「本当に海へいったのかどうかはわからない」と言い訳をすると、両親は陽翔の部屋へ勝手に入って陽翔のパソコンを開いたらしい。
「え? パスワードとかあるでしょう?」
『本当だよ。どうやったのかはわかんないけど、とにかくそのパソコンにあった友だちとかクラスのアドレスへ手当たり次第に連絡をして回っているんだって。それもヒステリックな声で問い詰めるみたいに』
『それに自転車もなかったんだってさ』と亜里沙が通話に加わった。
『だから、ひょっとしたら海へいったんじゃないかって話になって』
「自転車で? 待って。何十キロあるのよ」
『あたしも調べた。陽翔くんの家がどこかわかんないけど、札幌駅からだと石狩のメノウのとれる海岸まで三十七キロあったわ』
「どうしてそこまでして海へ?」
声を震わせる柚月へ仁奈がいいにくそうに告げた。
『陽翔くんが無茶しているのは──あんたのためかも』
へ? と面食らう。
『だからー。……あんたにメノウをあげようとでもしたんじゃないの? 海へいけないあんたのためにさ。一刻も早くってね』
血の気がさあっと引いていく。
そのために模試をさぼって? こんな騒ぎにもなっている?
だから仁奈たちはわたしにクラスのSNSメッセージを読まなくていいっていったの?
たぶん……陽翔くんファンの子たちがそこでわたしを猛攻撃しているから?
『だけど、柚月』と仁奈が強い声を出していた。
『ぜんぜんあんたのせいじゃないから。お願いだから自分を責めないでよ』
『そうだよ。なんかいってくるやつがいるかもだけど無視して。無責任なことをいってるだけだから付き合う必要ないよ。クラスのSNSも見ちゃ駄目。動きがあったらあたしらが連絡するから』
わかった? と二人に念を押されてしぶしぶうなずく。
通話を終えて膝の上へスマートフォンを置く。目の前がチカチカした。
わたし──どうしたら。
「車を出しましょう」
不意に公武が声を出した。
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