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咄嗟になにをいわれているのかわからず、目をしばたたく。
「すみません。SNSの通話、聞こえてしまいました。柚月さんのクラスメイトの一大事なんですよね」
ああそうだ。本当にこれは──大事なんだ。
「話を聞いた限りでは、彼の家庭環境は一般的ではない状況にあるのがうかがえます」
少なくとも、と公武は続ける。
「パソコンの件だけでなく、数時間行方がわからなくなっただけの高校生の息子の行方を知るために、クラス中を巻き込むなんて普通じゃない」
仮に、と公武は語気を強める。
「彼が重篤な疾患を抱えていて、常日頃からご両親が気を配っていたとしてもやり方があるはずです。捜しにいきましょう。車を出します」
え、と顔をあげる。あわてて、「いえそんな」と手を振る。
「これだけの騒ぎになっていて彼から反応がないということは、みなさんの懸念どおり何らかのトラブルに遭っているのかもしれません。スマートフォンを見ることができない状況ですから」
「電池がなくなっているのかもしれないし」
「それに彼が本当に海へ向かっていたとして、それがあなたのためかもしれないとなれば、柚月さんだってほうってはおけないでしょう?」
「それは……」と口ごもる。
「いまごろご両親もお友だちから聞き出した情報をもとに海へ向かっているでしょう。ご両親にピックアップしてもらって、それで何事もなく彼がおさまればいい。だけど、そうならなかったら?」
ハッと顔をあげる。
……あくまで想像でしかない。けれど、この短時間でクラス中へ連絡してまわった陽翔の両親が、「心配したのよ」と穏やかに陽翔を迎えるとはとても思えなかった。両親の車を見た陽翔が思わず逃げ出して、ますます事態がこじれるかもしれない。
「人手は多いほうがいいです。無駄足になってもいいですよ。ためらって動かなくて、彼になにかあったら?」
「そうですけど。どうして? 公武さんはぜんぜん陽翔くんを知らない。それなのに、どうしてそんなに考えてくださるんですか?」
「彼の事情を知ってしまったら僕だってほうってはおけません。後味悪いです」
真っ直ぐな眼差しでいい切る公武を見て、ああ、と思う。
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