2.母はサンゴの研究者でした

5/5
前へ
/91ページ
次へ
 その公武が不意に「ああ」と声色を変える。 「降ってきましたね」  顔をあげるとフロントガラスに雨粒がついていた。みるみる雨粒が大きくなる。 「この先、東向きにカーブした先あたりがメノウのとれる海岸らしいですが。まずいな。ひどい雨だ」  公武の言葉どおり横殴りの雨になる。  ワイパーの速度をあげてもフロントガラスの視界を得るのが難しいほどだ。  不意に公武が車の速度を緩めた。 「左手の路肩。あれって自転車ですかね?」  あわてて身を乗り出す。  下り坂の途中、遠くに日本海が望める簡易駐車場に自転車と人らしいなにかがあった。カーナビ画面には望来(もうらい)駐車場とあった。 「雨で途方に暮れているだけですかね。いや──パンクでもしたのかな?」  近づくにつれて自転車のそばでうずくまる人影がはっきりとわかった。  柚月はさらに大きく身を乗り出した。 「陽翔くんっ」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加