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3.それは過保護じゃない
頭からすっぽりとバスタオルをかぶって、後部座席の陽翔はかすれた声を出した。
「……パンクするなんて予想外だったから」
柚月は小さくうなずくと助手席から陽翔へ身を乗り出した。
「怪我はしていない? 痛いところは? まず身体をあたためて。ほうじ茶よ。熱いから気をつけてね。それから残り物だけどおにぎりとおかずもあるわ」
嫌がる陽翔を強引に車へ乗せてホッとひと息ついたところだ。
はい、と柚月はカップを差し出した。公武はエアコンの温度をあげる。あたたかい空気が車内へ流れて柚月の頬もほうっと緩む。
カップを受け取った陽翔はなんどか息を吹きかけて、そっと口をつけていく。
数口すすって視線だけをあげる。
「……なんで?」
どうしてここへきたの? どうしてここにいるってわかったの? どうしてここに柚月がいるの?
そのすべてを含んだ眼差しだ。えっと、あの、といい淀んでから答える。
「──SNSで回ってきたの」
陽翔の眉が歪む。
「おれのスマートフォンさ。電池が切れちゃってて。だけどなんでSNS?」
なにからいえばいいのか。戸惑っていると陽翔は視線を泳がせた。
「ひょっとして、あいつ? おれが模試をさぼったから?」
あいつとは眞帆のことだろう。くっそ、と陽翔は小さく舌打ちをする。
「……聞いた話なんだけど、ご両親も心配なさっているみたい」
「なんで親が? って? あー……」
陽翔が視線を泳がせる。
「……なるほど、そういうことか」
怒りを鎮めるように陽翔は強く目を閉じた。肩で大きく息をしている。
見ている柚月もつらくなって視線を落とした。公武は黙ってなりゆきを見守ってくれていて、車内には雨が叩きつける音とエアコンの音だけが響いた。
やがて陽翔はドリンクホルダーへカップを入れると、足元に置いたバックパックからなにやら取り出した。
それを柚月へ向かって差し出した。
「いらないかもだけど、貰ってくれる?」
息をのむ。陽翔の手のひらに白っぽくつるんとした五センチくらいのメノウが数個のっていた。ほんのりオレンジがかったものもある。
そっと受け取り、陽翔を見る。
「やっぱり……わたしが海へいったことがないっていったから?」
「……うん」
「……ありがとう。きれい」
「だろ? よかった。おれも嬉しい。がんばった甲斐があった。喜んでくれてありがとうな」
ぎゅっと胸が苦しくなる。
どんな思いで陽翔がメノウを拾ってくれたか。それを思ったら安易に受け取るべきではないかもしれない。
それでも、こんなにびしょ濡れになってまで探してくれて、そして──これから、起きた騒ぎに向き合わなくてはならない陽翔を思うと拒絶はできなかった。
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