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「あ、いえ」と柚月はあわてた。
「本当にもしよかったらで。手作りおにぎりが苦手な方もいらっしゃると聞きますし」
……なんでわたし、こんなことをいい出しちゃったんだろう。
恥ずかしくて身を縮めると、きゅるるる、と音が聞こえた。青年の腹の音だった。
そっと青年を見る。青年はバツの悪そうな顔をしていた。
それを見て肩の力が抜ける。
「たくさん作ったので、本当にお嫌じゃなかったら」
レジャーシートへ戻って柚月は青年に「どうぞ」と勧める。
青年は躊躇していたけれど、よほど空腹だったのだろう。
「……ではお言葉に甘えて」とシートへ膝を進めた。弁当箱をのぞき込んで青年は目を見張った。
「これを全部作られたんですか? おひとりで?」
「あー、はい。ちょっと早起きしました」
青年はひといきうなって弁当箱を眺めていたが、やがて「失礼します」と真っ直ぐにおにぎりへと手を伸ばした。
野沢菜を細かく刻んで白ゴマと混ぜ込んだおにぎりだ。真ん中にはタネをはずした梅干が入っている。
「いただきます」
深々と頭をさげてから青年はおにぎりを口へ運ぶ。
そしてひと口食べたところで雷にでも打たれたように目を大きく見開いた。
呆けた顔つきでおにぎりから口を離し、おにぎりを凝視する。
「……なんじゃこりゃ……」
「あ、あの」と柚月は急いで青年へカップを差し出した。
「お口に合わなかったのなら無理なさらないで。お茶で口をすすいでください」
青年は答えず、おにぎりを睨み続けた。
その目が次第に充血していく。顔もこわばり、頬は小刻みに震えだした。そのまま卒倒しそうだ。
え? なに? ひょっとしてなにかの発作? 救急車を呼ぶべき?
柚月がスマートフォンを取り出して操作しようとした、そのときだ。
勢いよく青年が柚月へ身を乗り出した。
「このおにぎり、どうやって作ったんですかっ」
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