3.それは過保護じゃない

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 公武がUSBケーブルを車のジャックへつないだ。反対側を陽翔へ差し出す。 「これでスマートフォンを充電して、状況を把握するのを勧めます。それで……いろいろあるとは思いますが、ご両親に連絡をいれたほうがいいでしょう」  陽翔が公武を睨んだ。見たこともない凄まじい形相だ。  それでも公武は表情を変えることなくケーブルの口を差し出し続ける。やがて陽翔は視線を落とすと「お借りします」とくぐもった声を出してケーブルをスマートフォンへつないだ。  薄暗くなってきた車内で、スマートフォンの灯りが陽翔の顔を照らす。  画面をスクロールしていく陽翔の顔つきが徐々に変わる。視線が険しくなり、唇の端も細かく揺れていた。SNSメッセージを読んで両親がクラス中で大騒ぎをしているのを目の当たりにしたのだろう。  陽翔はときおり目を閉じて、叫び出したいのをこらえるように大きく息を吸った。そして首を振って海の底へもぐるようにスマートフォン画面へと向き合った。  ぜんぶを読み終わったのか。スマートフォンをシートへ落とすと、陽翔は前かがみになって両手で額をおさえた。  どう事態に対応するか。それを整理整頓しているかのようだった。姿勢を戻して大きく息をはく。  心配そうに陽翔を見ていた柚月に気づいたのだろう。陽翔は柚月へ大げさに肩をすくめてみせた。 「うちの両親ってさ。度を越した過保護なんだよね」  驚いただろう? と陽翔は苦しそうな笑みを向ける。 「子どものころからずっとだよ。おれのことをすっごく知りたがる。通学路はどんなだったか。学校で最初に挨拶したのは誰か。一時間目の授業で誰がなにをいったか。昼休みはなにをしていたのか。給食や弁当はなにから食べたのか。帰り道にどんな人とすれ違って、角の家にはどんな花が咲いていたのか」  食事の前に三十分以上かけて聞き出されるのだという。  毎日欠かさず、三百六十五日だ。 「聞くだけじゃない。ランダムな現場検証もある。下手な嘘なんてとてもつけない。通りから三件目の家で咲いていた花は何色かを、その家へ電話をかけて確認するんだ。親は町内会の役員もやっているから連絡確認できる相手は選び放題だ」  もちろん、と陽翔は茶化すように両手を軽く開く。 「休みの日もだよ。部屋にいたって三十分おきになにをしているのか確認にくる。出かけるときは行き先と行程を細かく告げなくちゃ許可されない。告げたって親が気に入らない点があったら外出禁止だ。ネットの履歴はもちろん筒抜けだよ。子どもにはプライバシーなんて不要なんだってさ」
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