3.それは過保護じゃない

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 背筋が寒くなる。陽翔くんはそんな思いをずっと?  学校ではそんな素振りはぜんぜんなかった。いつだって明るくてみんなの中心で、楽しそうに笑っていた。  学祭だってそうだった。みんなをグイグイ引っ張ってクラスを明るい空気に変えた。険悪になりかけた空気だってあっという間にほぐしていた。 「今回もさ。バレるとは覚悟していた。そりゃ、こんなふうにクラス中を巻き込むとは思わなかったけど、そうだな──大丈夫」  うん、大丈夫、と陽翔は自分へいい聞かせるようになんどもつぶやく。 「これは想定内だ。大したことじゃない。でも柚月も巻き込んじゃったね。ごめん」  首を振って「それで」と思わず声が出る。 「嘘をついたらどうなるの? ごまかしたり、事実じゃないことがあったら?」  陽翔は途方に暮れたような顔になる。柚月へ向けていた視線を気だるくそらしてこわばった声になる。 「──泣くんだ」 「え」 「どうしてそんな嘘をつくんだ。嘘をつかなきゃならないことがあったのか。そんなに本当のことをいうのが嫌なのかって泣かれる。母さんだけじゃない。父さんも涙こそ流さないけど、心底苦しそうな顔をする。そんで一週間は険悪な空気になる」  いやー、もうさ、と投げやりな笑みを浮かべた。 「家中の空気を悪くしたのがおれみたいになってさ。そりゃ、おれなんだけどさ。兄弟とかはいないし、三人暮らしだからほかに場を和ませてくれる人もいないしさ。さすがに小学生にそれはキツくてさ。それからだな。いいとか悪いとかじゃなくて、とにかくおれが親の気に添うことだけやっていれば、この家は平和なんだって身に染みて。突っかかるのももうあきらめていたんだけどな」  大きく眉を歪める柚月に気づいてか、陽翔はあわてて首を振る。 「そんなに深刻じゃないよ。殴られたり蹴られたりするのはたまにだし、骨が折れたのも数回だけだし。数日飯抜きだったことだったり、自宅から出られなかったくらいで、うん、ただ過保護なだけだ。だから──」  続けようとする陽翔の声を公武がさえぎった。 「それは過保護じゃない」
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