22人が本棚に入れています
本棚に追加
4.陽翔くんはなんて──勇気があるんだろう
陽翔は表情を一変させて公武を睨んだ。
「なんだよ。おれが甘っちょろいっていいたいの?」
「逆です」
「は?」
「虐待の域です。異常です」
「なにいって」
「君が我慢する域じゃない。児童相談所や保護機関へ相談をしましょう。シェルターもあるはずです。このままそこへ向かう手もある。調べてみます。少し待ってくだ──」
柚月はスマートフォンを取り出そうとする公武の腕を引く。
陽翔が公武を睨みつけたまま泣いていた。
唇を震わせ声を出さずに鼻先を真っ赤にして、大粒の涙を流している。頬を伝わる涙は顎をしたたり、雨で濡れた陽翔のTシャツをさらに濡らしていた。「……そっか」と陽翔は声を絞り出す。
「……ずっと、おれが悪いのかと思っていたんだけどさ。おれ、悪くなかったんだ」
「当り前です」
公武は運転席から身を乗り出して断言した。
「君は悪くない」
息をのんで陽翔は公武を見る。その視線が気弱そうに揺れた。ためらうように、「だけどさ……」と陽翔は公武から目をそらす。
「親は本気で心配そうに泣くんだ。それってさ。おれのことを思ってくれているからで。おれのためで──」
「自分の子どもなら気持ちを聞かずに一方的に考えを押しつけてもいいんですか? なにをしてもいいとでも?」
「それは」と陽翔は口ごもる。
「君のためというのなら、より添うこともできたはずだ。だけど話を聞く限りではそうはみえない」
公武は運転席のシートを強くつかむ。
「相手のいい分もあるでしょう。ですが、君はつらい、苦しい、耐えがたい、そう思うんですよね。そうずっと我慢してきたんですよね。それを貫いた君はどうなるんです? 親の期待どおり? 親が喜ぶ?」
そんなの、と公武は吐き捨てる。
「ただ君が壊れるだけですよ」
陽翔の眉が大きく歪む。その陽翔へ公武はもう一度力強くいい放った。
「君は悪くない」
口をきゅっとしめて、陽翔はまっすぐに公武を見た。公武もその視線に答えるように真剣な眼差しで陽翔を見る。
最初のコメントを投稿しよう!