22人が本棚に入れています
本棚に追加
*
陽翔と両親とのやり取り。
それは電話越しからも過剰なほど激しいものだった。
漏れ聞こえる会話だけでも、行方がわからなくなっていた息子を心配する内容にはとても聞こえない。怒鳴り声は途切れることはなく、陽翔が弁解をする暇はない。陽翔が「クラスメイトとその友人に助けてもらった」と伝えても、柚月や公武に両親が通話を代わって礼をいうこともなかった。
しかも長い。
小一時間近くも陽翔はただ責め立てられ続けていた。
出先の電話口でこの長さだ。もし顔を合わせてのやりとりだったら数時間になっただろう。
こんな会話ではない一方的なののしりを、陽翔くんは毎日受けているの? 胸が張り裂けそうだ。
とにかく一刻も早く帰ってこいと、これまた一方的にまとめられて通話は終わったようだった。
*
陽翔を自宅の近くまで送るころ、雨はようやく小降りになった。
車から自転車をおろす公武とともに、柚月も陽翔を見送るために外へ出る。緊張した顔つきでバックパックを背負う陽翔の前に公武が立つ。
「──本当に帰るんですか? 専門機関へいく手もあります」
力なく首を振る陽翔へ公武は歯がゆそうに続けた。
「頑張るのと無茶をするのは違います」
ハッと陽翔は顔をあげる。「ですから」と公武は陽翔へ名刺を差し出した。
「なにかあったら遠慮なく連絡をください。力になります。こうして知り合ったのもなにかの縁ですから」
「どうして」と陽翔は声を震わせる。
「どうしてそこまでしてくれるの。出会ったばかりなのにさ。憐(あわ)れんでんの?」
虚を突かれたような顔をして公武は言葉をのむ。「そっか、そうですよね」と淋しそうな笑みを浮かべた。
「いわば、僕のエゴみたいなものです」
それでも、と語気を強める。
「無茶をしてほしくないんです。道はひとつじゃない。いくつもある」
そう前置きしてから、「実は」と続けた。
最初のコメントを投稿しよう!