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朝九時すぎだ。
日曜なのでゆっくりと朝をすごし、ちょうど洗濯も終えたころだった。
スマートフォンからけたたましい警告音が響いた。
メロディとともに「地震です、地震です」と自動音声が繰り返す。
「え?」とたたんだバスタオルを棚へ入れる手を止めると、スタンドの中の歯ブラシがカタカタと小さい音を立てた。続いてガタガタと大きな揺れがきた。驚く間もなく立っていられない揺れになる。
「柚月っ」と巌が洗面所へ飛び込んできた。
棚のタオルを手で押さえ、巌は柚月にヘルメットをかぶせた。自身もしっかりかぶっている。大げさな、と思うより早く灯りが落ちる。停電だ。
数秒が数分にも感じて、ようやく揺れがおさまった。
「またすぐに余震がくる。いや、次が本震かもしれねえ。足元に気をつけろ」
そういう先からまた揺れが起きる。一度ではない。二度、三度と繰り返す。
巌に肩を抱かれてリビングへ移動した。その間も壁がメキメキと低い音を立てた。ときおり鋭い音がして壁へヒビがピシッと入る。
「なかなかだな、おい」と巌が呑気な声をあげなければ悲鳴をあげるところだった。
やがてゆっくりと揺れがおさまっていく。巌は柚月のヘルメットをポンポンと叩くと仕事部屋をのぞき込んだ。
「よおし。無事だな。本棚の固定が利いたみたいだ。お前の部屋はどうだ? 台所は? 足元に気をつけろよ」
えっと、と部屋を見る。
柚月の本棚も巌の指示でがっちりと落下防止シートとテープ、さらにはストッパ―を施していたので落下した本は一冊もなかった。机にあった鉛筆と消しゴムが床へ落ちたくらいだ。
台所も同様だ。食器棚から飛び出した皿は一枚もない。
「水はどうかな」
水栓コックをあげる。「あ」と声が出た。「お」と巌が顔を出す。
「もう水が出ないのか。早いな。マンション屋上のタンクがやられたか? ならトイレもアウトだな」
おっしゃ、と巌は手のひらに拳を叩きつけた。
玄関のすぐ外のトランクルームから非常用飲料水タンクを室内へと運んでくる。仕事部屋で保管していた簡易トイレもテキパキと組み立てていく。
作業をしながらスマートフォンで確認したらしく、巌が口笛を吹く。
「マグニチュード8・6だあ? 震源は? 十勝沖? 千島海溝由来か? で? 札幌は震度6弱か。そりゃいろいろ落ちるわな」
あとは、と巌はリビングを見回す。
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