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2.イソガシオニにとらわれませんように
巌の予想どおり、避難所へ指定された近所の小学校はこれ以上ないほどの混乱ぶりだった。
地震が起きてからまだ数時間足らずだ。それでも着の身着のままといった人たちが険しい顔つきで押しよせていた。ヒステリックな声も響いている。
「避難所はまだできていないのかな」
「担当の区役所職員くらいは到着しているはずだがな。町内会の連中と合流するか」
こっちだ、と巌はどんどん人波をかきわけて中へと進んでいく。
そのうちに「乙部さーん」と声が聞こえた。町内会婦人部長の小清水が手を振っていた。隣に町内会防災部長の沼田も立っている。あらかじめ巌が連絡を入れておいたのだろう。
巌は二人へ頭をさげる。
「世話になります。娘をよろしくお願いします」
「なんもさ。こっちこそ道庁を頼みます」、「柚月ちゃんは気が回るから手伝ってもらえるなら大助かりだあ」と二人は柚月の背中を叩く。
普段から町内会の防災訓練で見知った顔なので柚月も心強い。
巌は「じゃあな」と柚月の頭を撫でて、すぐに背中を向けた。
え、もう? 眉がよったけれど、不安になっている場合ではない。「いってらっしゃい」と声をかけて小清水へ振り向いた。
「なにからすればいいですか?」
「避難訓練どおりに避難所を作っている最中なんだわ。でも人手が足りなくてね。立ち入り禁止区域のテープ貼りもまだなんだわ。妊婦さんスペースもまだできてなくてさ」
「じゃあわたし、そっちの手伝いにいきます」
「ああいやいや、柚月ちゃんは受付の手伝いへ入ってくれるかい? あそこが一番ひどいんだわ。避難所はみんなが使うところだって、ちゃんと伝えなくちゃいけないから手間取ってんのさ」
「わかりました」と答えて校舎中央玄関前へ走った。
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