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とにかくびっくりするくらいやることがある。
受付の手伝い以外に飛び入りの作業が山ほど入る。
コロコロ変わる共通ルールを知らせて回り、掲示板へ日本語と英語で貼り出し作業だ。
体育館の避難スペース配分も避難者に応じてどんどん変わり、そのたびにパーテンション用段ボールの移動がある。避難所設営後数時間なので、あれやこれやと変更の嵐だ。
どれくらい夢中で動いていただろう。
グランドで到着した物資の荷下ろし作業をしていたときだ。
「柚月さん?」と声がした。
公武が立っていた。
「ああやっぱり柚月さんだ」
受付は済ませたのか、ボディバッグを肩からさげた身軽な格好だ。
昨日会ったばかりなのに、どうしてだろう。公武の顔を見たら張り詰めていた気持ちがいっきに緩んでいく。気づくと頬を涙が伝っていた。
「ど、どうしました?」と公武が顔色を変える。あ、いえ、と柚月はあわてて頬をぬぐう。
「ちょっとホッとしちゃって」
「……地震大変でしたから。ご無事でよかった」
「父が防災マニアみたいになっていたので、あれこれ準備がしてありました。自宅はほぼ被害なしです」
「コップひとつ割れなかったということですか?」
「本一冊も落ちませんでした」
「さすがすぎる。僕の部屋はもうめちゃくちゃですよ。食器棚がひっくり返っちゃいました。水も出ないし電気も止まるし、余震も続くので早々にここへきました」
そういって公武は柚月の背後を見回した。
「おひとりですか? 乙部先生は?」
「道庁の対策本部へ。わたしはここを手伝うようにいわれて」
なるほど、と公武は大きくうなずく。
「なら僕も手伝います」
「本当ですか?」と明るい声が出た。
それを聞いて返って公武は眉をよせた。
「……なにかあったんですか? 泣かれるほどつらいことが?」
いえ、と首を振ったけれど、公武は珍しく「柚月さん」と言葉を重ねた。柚月は小さく息をはく。
「ここへお手伝いにきて数時間ですけど、いろいろいわれたんです。どうも目障りだったらしくて。手伝いを出しゃばっているって思う方もいて」
え? と公武の顔が険しくなる。
「区役所の人や町内会の人に混じって荷物を運んだりしていただけなんですけど。生意気に見えたんでしょうね」
柚月さん、と公武はまっすぐに柚月の目を見る。
「文句をいった人たちは柚月さんを手伝ってくれたんですか?」
えっと、と口ごもる。胸の奥がざらついた。これ以上は悪口になるみたいでいいたくない。だから、その、と顔をあげる。
「でも、そんなこと、なんでもないんだ、って気を張って動いてきて。そこで公武さんにお会いできて、気が抜けちゃいました。すみません」
公武が膝を屈めて柚月の肩へ両手を乗せた。目線を柚月へ合わせてくる。
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