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それから──。
公武の働きに柚月は目を見張った。
重い荷物を手にした年配者を見つけると体育館の町内会区分エリアまで荷物を運び、途中で声をかけられた外国人には流暢な英語でトイレの場所を伝えた。
「僕の背丈が役立つかもです」とテント設営へも率先して手伝いに回り、その最中も迷ったふうにグランドへ入ってくる車を一般車駐車スペースへと誘導した。
実に頼もしい。
そうして夢中で動いていると、あっという間に日が暮れていった。
「柚月ちゃーん」と小清水が声をかける。
「ありがとうねえ。疲れたっしょ。そこの、えっと、阿寒さんだっけ? 助かったよお。二人ともご飯をお食べよ。外の天幕つきベンチが空いてるよ。しっかりと食べるんだよ」
そういって小清水はカレーの皿を差し出した。レトルトのようだが香ばしい匂いに公武と二人で「わあ」と頬を緩める。
「いいですねえ、カレー。食べたいところでした」
「僕もです」
「そりゃよかった。ベンチの脇にカンテラがあるから使っていいよ」
ありがとうございます、と声をそろえてベンチへ向かう。
さっそく公武がカンテラをつけると、穏やかなクリーム色の灯りが手元を照らした。ソーラーランタンだ。
「いただきます」と手を合わせてカレーを頬張る。ひと口食べたら止まらない。皿はみるみる空になる。
喉を鳴らして水を飲み、はあ、と二人そろって大きく息をはいた。顔を見合わせ笑い合う。
「さすがに今日はとても疲れました」
「柚月さん、すごくあれこれ動いていましたから。僕も負けていられないとムキになって動いちゃいましたよ」
「そうだったんですか?」
「明日はお互いほどほどにしましょう。身体がもたない」
はい、と笑って大きくうなずく。足元がプルプルと揺れた。地震だ。それでも公武と一緒だと思うと安心だった。
「それで柚月さん、今晩はどうしますか? ご自宅へ戻られますか?」
「あ、そっか。どうしようかな」
そのときだ。
柚月のつぶやきが聞こえたかのようにサコッシュに入っているスマートフォンが鳴った。
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