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「向こうから救援物資が届いたり助けがくるのはアテにできねえ。つうか無理だろうな。向こうの被害の方が大きそうだ。そういうわけだから、そいつは持っておけ」
そんな、と声を失う。公武はこわばった顔で唇を噛みしめていた。
公武の出身は本州だ。それに気づいてか、巌が公武の背中を軽く叩く。
「歯がゆい気持ちはわかる。だがな。いま俺たちにできるのは、自分たちの体調管理をすることだ。ここで怪我でもしたら、いざってときに動けねえ」
「はい」と公武は険しい顔でうなずく。
「──昼すぎくらいに、道内全域で避難所体制の変更が伝わるはずだ。それまでは黙っていてくれ。騒ぎになる。さいわい夏だしよ。北海道だからな。食糧に関しちゃ、贅沢いわなきゃとりあえずはなんとかできるだろう」
それからこいつだ、と巌はこれまたバックパックから手のひらサイズの黒い箱を二つ取り出した。柚月と公武へそれぞれ手渡す。
「ソーラー充電器だ。工学研究院の知り合いの試作品で、蓄電もすごいらしい。曇り空でも充電できる。コストがかかりすぎるから実用化に至っていないっつう間違いない優れもんだ」
それって何百万とかするようなものってこと? 受け取った小ぶりの黒い箱が重く感じる。
工学出身の公武は目を輝かせて両手で受け取っていた。
巌は使い方をざっくりと伝えると「じゃあな」とバックパックを背負い直した。
「え? もう?」
「お前の顔が見たくて、ちょいと抜け出してきただけだからな」
ひょっとしてわたしが昨日ガッカリした声を出したから? それでお父さんに無理をさせちゃった?
柚月の顔色を見て「自宅の様子も確認したかったんだ」とあわてて巌は付け加えた。「お父さんっ」と巌のシャツをつかんだ。
「ちゃんと休んでる? 寝てる?」
「安心しろ。居眠りは得意だ」
「そういうことじゃなくて」と首を振る。
鼻先が熱くなる。視界がかすみそうになる。父のことだ。対策本部では誰よりも真剣に声を飛ばしているだろう。一瞬の油断もなく事態急変に備えているに違いない。
少しでも被害を少なくするため、その一心で。
頭があたたかくなる。巌が頭を撫でていた。唇を強くむすんで父の手を両手でギュッとつかむ。
「阿寒『くん』」
巌はかしこまった、そして切実な声で告げる。
「こいつを頼む」
「はい。お気をつけて」
「おう」と朗らかで頼もしい父の声が耳に響いた。
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