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4.誰かを頼るって──怖い
──本州以南においてマグニチュード9.1等の地震が発生。
このニュースは巌の予想どおり、昼過ぎに道庁から避難所へ連絡が入った。
掲示板へ貼り出された地震情報を前にして、ざわめきや悲鳴が避難所へ広がった。
噂ではない公的な情報だ。これからの生活をあきらめる声や現状をヒステリックに叫ぶ声が飛び交う。
その中、柚月は公武にうながされてグランドへ出た。
「柚月さん。僕たちの立場を再認識しませんか? これは僕自身が揺らがないためでもあるんですが。僕たちはただの協力者です」
ハッとする。
「市の職員や町内会役員の人たちのように、感情的になった避難者からの問い合わせに対応したら、さらに期待されるし、なんの権限もないくせにと反感も買います」
ですから、と公武は続ける。
「僕たちは作業を進めるだけに徹しましょう。本州がどうなっているにしろ、多くの人が生活するこの避難所の機能を停止させるわけにはいきません」
力強くいいきる公武に息をのむ。公武さんこそご実家の様子が気になるはずなのに。公武の気持ちを思って柚月は「はい」と神妙にうなずく。
そして次から次へと道庁と市役所から避難所運営について連絡が入った。
避難所が短期間で閉所する見込みがなくなって、まさにサスティナブル、持続可能な避難所生活仕様へ変更だ。
運営チームも再編だ。
復興支援作業のため役場へ戻る区役所職員に替わって、避難者が避難所の運営をすることになった。
受け身だった避難者の表情が少しずつ変わっていく。他人事ではなくなったからか、柚月へ舌打ちする避難者はいなくなった。
それはありがたいのだが、道庁や市役所がより災害復興対策へ集中するようになったので、巌も道庁へ詰めっきりだ。電話でやり取りをするくらいで、父の顔を見ない日々が続いていく。
仁奈と亜里沙からの連絡が届いたのは、そんなときだった。
昼ご飯の準備のためにグランドと体育館を往復していると、サコッシュの中のスマートフォンが振動した。
あわてて取り出すと、SNSの受信表示があった。仁奈と亜里沙からの数日前の通信がようやく届いたようだった。飛びつくように画面を開く。
『柚月、無事? ウチの部屋はもうぐしゃぐしゃだよ。本棚がひっくりかえっちゃった。避難所生活してるわ。暑くてやってらんないよね』
『あたしんとこも。窓が割れちゃったから悲惨。でも夏でよかったよねー。真冬だったら雪とかマイナス気温とかでゾッとするよ。怪我もないから心配しないで』
そして二人ともに『柚月んちを見習ってヘルメットとか買っておけばよかったよー』と続いていた。
よかったー、とスマートフォンを胸に当てる。
二人には地震直後に連絡を入れた。けれども返信がなくて心配していたのだ。通信障害があると知り、作業の合間になんども二人の無事を願っていた。
目尻に浮いた涙をぬぐって二人へ返信する。二人とのグループアカウントを閉じると、高校のアカウントからも連絡が届いているのに気づいた。『終業式中止の案内』とあった。
「そっか、終業式。忘れていたわ。えっと、本来なら昨日かな?」
校舎は避難所として活用中につき、学校活動は中止、終業式は開かずこのまま夏休みへ突入との連絡であった。安否確認フォームが続いていて、現在地の項目から避難所を選んで送信する。
その間もメッセージ受信サインが次々にあがる。今度はなにかと画面をタップして大きく目を開いた。
陽翔からだった。
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