4.誰かを頼るって──怖い

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『柚月、地震、大丈夫か?』とはじまり、『おれんちはもうめちゃくちゃさ。食器棚からグラスやら皿やらが飛び出して足の踏み場もない』とあった。  幸い怪我はなかったけれど、家族そろって避難所生活を送っているとあった。『それがかえって助かった』と続いている。 『人目がある中でおれへネチネチやるわけにはいかないでしょ。親もおとなしくなってさ。時間稼ぎになった。いい機会だから、避難所でこれからどう親と接していくか、ちゃんと考えてみる』  ホッとする。あのあと、陽翔が両親から暴力行為を受けているのではとヒヤヒヤしていた。 『阿寒さんもそこにいるんだろ? 困ったことがあったらちゃんと頼れよ』と続いていた。  どうして? と文面を読みなおす。  公武さんは陽翔くんのアカウントを知らないはず。だったら陽翔くんから公武さんへメールしてくれたってことよね。 「……よかった」  思わずその場へしゃがみ込む。ホッとして泣きそうだ。陽翔くんが公武さんを頼るって決心するまで、いったいどれだけあれこれ悩んだだろう。  だって──誰かを頼るって、怖い。  頼ってそれで──重いって思われたら? 鬱陶しいって思われたら? いま以上に傷つけられたら? ……そう思ったら怖くてとても簡単には口にできない。  だけど陽翔くんは公武さんを頼ってくれた。頼るって決心してくれたんだ。本当に陽翔くんは──強いなあ。すごいなあ。 「どうしました?」と声がした。公武が心配そうな顔で近づいてくる。柚月はあわてて立ちあがる。 「具合が悪いんですか?」 「ああいえ、陽翔くんから連絡がきたんです」  ああ、と公武が顔を緩めた。 「陽翔くん、公武さんへ連絡をしてくれたんですね。よかったって安心して。……どうぞ、よろしくお願いします」  公武はやや顔をこわばらせて苦しそうな声を出した。 「こんなふうに僕が彼に介入するのを、柚月さんが快く思われないのは承知しています。本当に僕はまったくの他人で、学校関係者ですらありませんから」  ですが、と公武は強い眼差しになる。 「彼から連絡をいただいた以上ほうり出すことはできません。連絡をもらえなくても忘れることはできなかった。あれこれ手を出していたでしょう。中途半端ができるほど器用ではないので」  ですから、となおも続けようとする公武に柚月は大きく首を振る。 「不愉快だなんて思っていません。とっても心強く思っています。さっきだって、陽翔くんが公武さんを頼ってくれたってわかって嬉しくて泣きそうになりました」 「よかった」と公武は笑みになる。その公武へ柚月はもう一度「よろしくお願いします」と頭をさげた。 「はい」とうなずいた公武が「ところで」と口調を変えた。
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