4.誰かを頼るって──怖い

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「このところ避難所の高齢者のみなさん、全員ではなくて一部のかたなんですけど。元気がないと思いませんか? 四日目ですからね。疲れが出てきているのかな?」  え? と背後の体育館を見る。それから空を見あげる。  今日も朝から青空が広がっていた。遠くにうっすら雲がある程度だ。天陣山のほうからはエゾハルゼミの声がシャワワワと聞こえていた。  うーん、と柚月は口元へ手を当てる。 「野菜不足──ではないですよね。昨日も近くの農家さんからトマトやキューリの差し入れがありましたし。農作物は地震に関係なくどんどん実るからって」 「ご自身も罹災されているのに、頭がさがりました」  だとしたらやっぱり、と柚月は空を見る。 「暑いですからねえ。この小学校の教室や体育館にはまだ移動式エアコンくらいしかないですし。それだって電力の問題で動いているかどうか」 「暑い?」と本州出身の公武は首をかしげる。 「日中は汗をかきましたけど、夕方になると涼しい風が吹いていましたが?」 「道民って暑さに弱いんです。二十度を超えると駄目という方も多いんですよ。小清水さんや沼田さんもつらそうにしていました。それにこの生活がしばらく続くとわかったから、余計につらくなったのかも」  明日までの我慢となればがんばれることも、いつまで続くのかわからないとなれば弱気になるものだ。 「食事もどうしてもお腹がいっぱいになればいいって感じのものですし」 「──なるほど」 「やっぱりパンとかじゃなくてご飯のほうのがいいのかなあ。せめて熱中症にならないよう、わたしもより気をつけて飲み物を勧めてみますね」  歩きかけた柚月へ公武が「柚月さん」と呼びかけた。振り返ると公武はさっきの場所に立ったままうつむいている。  どうしたんだろう。柚月が首をかしげたところで、公武が勢いよく顔をあげた。 「やりましょう」 「なにをですか?」 「おにぎりです」 「へ?」 「おにぎり大作戦ですよ」  目を輝かせて公武が力強く続けた。 「できたてのおにぎりを食べれば、元気が出ると思いませんか?」
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