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5.北海道にダイセイコマあり
かつて北海道の胆振東部でマグニチュード6.7の地震があり、北海道全域で停電になったときだ。
道民が愛するコンビニエンスストア・ダイセイコウマート。略してダイセイコマ。
そこが各店舗のガス窯で米を炊いてその場でおにぎりを作り、被災者へ振舞った出来事があった。
大振りのおにぎりは来道して被災した観光客へもいき渡り、人々は感動のあまり「北海道にダイセイコマあり」と拳を突きあげたという。
まだ存命だった祖母も「ダイセイコマは偉いねえ。北海道の誇りだねえ」と嬉しそうにしていたのをいまでも柚月は思い出す。
それはつまり、と公武へ首をかしげた。
「ダイセイコマと同じことをしようと? あ、そっか、公武さんは本州の方でしたね。わたしがいいたかったのは──」
「わかります。北海道が全域で停電、ブラックアウトになったことはニュースで見て覚えています。とんでもないことになったなと思いました。そんなときになんて臨機応変な対応ができるコンビニなんだろうとも強く思いました」
「そうなんです。すごいんです」と柚月までなんだか誇らしい。
「ダイセイコマのことです。今回もがんばってくれると思います。それはダイセイコマのスタッフへお願いするとして、僕がやりたいのはちょっと違います。僕たちには『おにぎりん』があります」
「『おにぎりん』?」
「柚月さんにたっぷりと改良アイデアをいただいていたおにぎりロボットです」
ああ、と柚月は声をあげる。『おにぎりん』っていう名前なんだ。かわゆい。
「ロボットですから疲労することはありませんし、おにぎりの量産もできます。ご承知のとおり味はまだ開発段階です。けれど販売目的でなければ問題にはならないクオリティです」
えっと、あの、と柚月は視線を泳がせる。盛りあがっている公武に水を差すのは気がとがめた。そっと遠慮がちに声を出す。
「……ロボットなら、電気が必要ですよね。たくさんおにぎりを作るのなら、なおさらたくさん。この避難所でそこまでの電気を融通してもらえるかどうか」
発電所の稼働再開の見通しは立っていない。避難所の電力は自家発電でなんとかしのいでいた。
巌がおいていったソーラー充電器もあったが、自分のスマートフォンの充電に使うくらいでまだ使いこなせていない。
ところがだ。
公武は「それです」と目を輝かせた。
「うちの災害用チームが開発したばかりのパワフルな蓄電池があります。先日、僕も三日くらいほぼ徹夜で制御プログラムを作らされて、柚月さんとのおにぎり会ができなかった、そのときの蓄電池です。その試作品と合わせて別チームが開発中のソーラーシステムを使えば、『おにぎりん』を問題なく稼働させられるはずです」
しかも、と公武は口角をあげる。
「『おにぎりん』は小規模店の店頭に設置することも想定していまして、小型なんです。屋外でのデモンストレーションも想定していました。僕のプログラムが仕上がるのを待っている状態でした」
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