5.北海道にダイセイコマあり

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 ああそうだ、と思い出す。  天陣山で公武さんから物理を教わったあのとき、そういう話を聞いたっけ。確かおにぎりをふんわりと握るのに再生可能エネルギーを使うっていっていた。もとから再生可能エネルギーで動くロボットなら使用電力の問題はないだろう。  アイデアをまくしたてる公武を見ていると、なんだか柚月までワクワクしてきた。  その公武が「ですが」と不意に言葉を切って気弱な顔になった。 「どれもこれも開発中の商品です。持ち出しの許可がおりなければはじまりません。まずは会社へいってみるしかありませんし──」 「どうしました?」  公武は答えず、小さくうめく。苦しそうな顔つきだ。「公武さん?」とうながすと、ようやく公武は低い声を出した。 「あなたを、ひとりにしてしまいます」  へ? と目を丸くする。公武は真剣な面持ちだ。あ、と柚月はあわてて笑顔を作った。 「大丈夫です。小清水さんたちもいます。することは山ほどあるのは公武さんもご存知でしょう? 父からもときどき連絡がありますし、うん……大丈夫。なんとかやっていけます」 「ですが心配です」  重ねていわれて言葉に詰まる。  ……そんなふうにいわれると、甘えてしまいそうになる。ひとりになったら淋しい。そう口にしてしまいそうだ。でも──。拳を握って顔をあげた。 「わたしも『おにぎりん』を見てみたいです。公武さんが寝ても覚めても考えているロボットなんですよね。すごい情熱だなあって、いつも思っていました」 「──柚月さん」 「わたしだってこの一か月ちょっと、関わらせていただいていました。『おにぎりん』が動くところを見たいです。それに公武さん、やってみたいんですよね? 公武さんの『おにぎりん』はこの避難所で救世主になるかもしれません」 「いえ、そこまでは」 「自信がないんですか?」  わざといたずらっぽい声を出してみせた。そこでようやく公武は笑顔になる。 「あります」 「ほら」と柚月も笑顔になる。 「わたしもおにぎりを握って、ここで共演できたら素敵ですよね」  みるみる公武の顔が緩み「──それ、最高ですね」と柚月の手を取った。 「それって『おにぎりん』にとって、これまでの試行錯誤の集大成みたいなもんですよ。うわ、どうしよう。めちゃくちゃドキドキしてきましたよ」  見ると本当に公武の腕に鳥肌が立っている。「ああもう、柚月さん、あなたって人は、けしかけるのまでお上手です」と顔をくしゃくしゃにした。
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