22人が本棚に入れています
本棚に追加
ああそうだ、と思い出す。
天陣山で公武さんから物理を教わったあのとき、そういう話を聞いたっけ。確かおにぎりをふんわりと握るのに再生可能エネルギーを使うっていっていた。もとから再生可能エネルギーで動くロボットなら使用電力の問題はないだろう。
アイデアをまくしたてる公武を見ていると、なんだか柚月までワクワクしてきた。
その公武が「ですが」と不意に言葉を切って気弱な顔になった。
「どれもこれも開発中の商品です。持ち出しの許可がおりなければはじまりません。まずは会社へいってみるしかありませんし──」
「どうしました?」
公武は答えず、小さくうめく。苦しそうな顔つきだ。「公武さん?」とうながすと、ようやく公武は低い声を出した。
「あなたを、ひとりにしてしまいます」
へ? と目を丸くする。公武は真剣な面持ちだ。あ、と柚月はあわてて笑顔を作った。
「大丈夫です。小清水さんたちもいます。することは山ほどあるのは公武さんもご存知でしょう? 父からもときどき連絡がありますし、うん……大丈夫。なんとかやっていけます」
「ですが心配です」
重ねていわれて言葉に詰まる。
……そんなふうにいわれると、甘えてしまいそうになる。ひとりになったら淋しい。そう口にしてしまいそうだ。でも──。拳を握って顔をあげた。
「わたしも『おにぎりん』を見てみたいです。公武さんが寝ても覚めても考えているロボットなんですよね。すごい情熱だなあって、いつも思っていました」
「──柚月さん」
「わたしだってこの一か月ちょっと、関わらせていただいていました。『おにぎりん』が動くところを見たいです。それに公武さん、やってみたいんですよね? 公武さんの『おにぎりん』はこの避難所で救世主になるかもしれません」
「いえ、そこまでは」
「自信がないんですか?」
わざといたずらっぽい声を出してみせた。そこでようやく公武は笑顔になる。
「あります」
「ほら」と柚月も笑顔になる。
「わたしもおにぎりを握って、ここで共演できたら素敵ですよね」
みるみる公武の顔が緩み「──それ、最高ですね」と柚月の手を取った。
「それって『おにぎりん』にとって、これまでの試行錯誤の集大成みたいなもんですよ。うわ、どうしよう。めちゃくちゃドキドキしてきましたよ」
見ると本当に公武の腕に鳥肌が立っている。「ああもう、柚月さん、あなたって人は、けしかけるのまでお上手です」と顔をくしゃくしゃにした。
最初のコメントを投稿しよう!