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驚いて顔をあげる。背後に小清水が立っていた。
「荷物ひとつ取りにいくのになんぼ時間をかけてんの」
「ご、ごめんなさい」
「怒ってんじゃないよ。持ったまま考えごとをしていたら体力が持たないよっていってんの」
そういって小清水は柚月の荷物を取りあげる。「あ、あ、ごめんなさい」と柚月は小声で繰り返し、小走りでトラックから別の荷物を受け取ると小清水へ続いた。
「阿寒さんなら大丈夫だよ」
ギョッとして小清水を見る。
「隠しているつもりだったのかい? バレバレだから」
あー……、と顔が赤くなるのがわかった。
「いい男だもんねえ。柚月ちゃんが惚れるのもしょうがないさ。あのお父さん公認なんだろう? 阿寒さんもやるねえ。いつから付き合ってんの? 春先くらいから?」
へ? と足を止める。
「付き合っていません」
ええっ、と小清水が声を裏返す。それに男性の声が交じっていた。沼田だ。いつの間にきたのか、沼田が小清水の隣に立っていた。
「あんたら、付き合ってなかったのかい? 嘘だろ。いやもう、おれはてっきり」
「あたしだってさ。だから安心して二人ペアの仕事ばっかり頼んでいたんだよ?」
「それは心強かったです。ありがとうございます」
「そうじゃなくて」とこれまた小清水と沼田は柚月へ詰めよった。
「なして(なんで)あんたら付き合ってないの」
「なんでといわれましても」
「柚月ちゃん、ほかに彼氏がいるのかい?」
「いえ……いません」
「したっけ阿寒さんに恋人がいるのかい?」
「いえ……彼女さんはいないといっていました」
「だったらなして」と小清水と沼田は声をそろえ、これまたそろって我に返ったように「あ、いやその」と言葉を濁す。そのまま無言で小清水は沼田へ荷物を押しつけると柚月の荷物を引き取った。
「柚月ちゃんはちょっと休みな。そんな調子で怪我でもされたら大変だよ」
「あ、じゃあわたし、トラックから別の荷物を貰ってきてから──」
「いいからテントで休みなって」
「ああ、はい」とおとなしく小清水の言葉にしたがう。
しゅんとする。そうか。わたしと公武さんはそんなふうに見られていたんだ。それは──公武さん、嫌じゃなかったかなあ。あー、でもー、と陽翔とのことを思い出す。
石狩の海での車中のことだ。あの素振りを見ると、そういうことに敏感とは思えなかった。くすっと、思わず笑みになる。
だったらわたしは? と立ち止まる。校門へ顔を向ける。小清水さんたちに恋人と間違えられて嫌だった?
「ほらー」と小清水の声がした。
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