炎舞(えんぶ)

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「ところで柏木さん、今回の転落事故のどのあたりに、事件の可能性を感じておられるんですか?」 「まだ、明確な証拠と呼べるようなものは見つかっていないんですが、まず気になったのは、藤花さんが転落した瞬間の様子なんです」 「と言いますと?」 「(せり)が下がっていることにはすぐ気づいたはずなのに、驚いたり怖がったりしている気配がまったく感じられなかった。あまりに突然だったというだけのことなのかもしれませんが、彼女の体が宙に舞った瞬間、僕の目には、彼女が微笑んでいるように見えたんです。まるで、事故を自ら望んでいたか、少なくとも予期していたかのようだった」 「言われてみればその通りだったのかもしれない。あの時、観客はしばらく誰も、事故が起きたことに気づかなかった」と、大野が考え込みながら答えた。 「もちろん、彼女がそれだけ踊りに没頭していたというだけのことなのかもしれません。もっと決定的なものに触れたような気がしているんですが、まだよくわからないんです。すみません、曖昧なことしか言えなくて」 「いえ、柏木さんが決定的なものに触れたとお感じになるなら、きっとその通りなんですよ」
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