炎舞(えんぶ)

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 堂島はそう答えると、大野の方に向き直って尋ねた。 「藤花さんの交友関係について、ご存じのことがあったらお聞かせ願えますか」 「そうですね……、芸術家にはありがちなことだと思いますが、彼女の創作の原動力は恋愛でした。つまり、倉田という二十年連れ添った夫はいても、恋の相手はいつも他にいたということです」 「で、今の恋人は?」 「今日の舞台でデュオを踊った塚本拓也です。この一、二年で頭角(とうかく)を現してきて、今回ついに相手役に抜擢(ばってき)されたわけですが、才能が開花したから彼女の目にとまったのか、彼女との恋愛がその才能を目覚めさせたのか、どちらかよくわからない感じでしたね。彼女との関係がプラスに作用したのは確かですが……。彼女との恋愛は、常に何か霊感のようなものを相手に与えるんですよ。ほら、そこの里見克彦もそうだ。この公演の伴奏音楽の作曲者です」  大野はそう言うと、先程から右手側の最前列の座席にすわったまま、無人の舞台を見つめている三十歳半ばの人物を目で示した。
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