炎舞(えんぶ)

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「ええ。もちろん彼らがまだ若手で、独身の頃の話です」  大野がそう答えた時、演出家の倉田誠治が姿を現した。年齢は藤花より五歳ほど年上の五十歳位だろうか。 「こちらが警察の方々?」と倉田はやや物憂(ものう)げな口調で大野に尋ねた。 「そうだ」 「警視庁捜査一課の堂島です」と堂島が話を引き取って言った。 「そして、新宿警察署の村田巡査部長。それから、昆虫学者の柏木准教授とご友人の澤村翠さん。柏木さんには数々の事件の解決にご協力いただいておりまして、捜査関係者の一人とお考えいただいて結構です。お二人は観客として舞台をご覧になっていました。私のところに事故を通報してくださったのも柏木さんです」 「初めまして、倉田誠治です。柏木准教授のお名前は、テレビのニュースでうかがったことがあるように思います」 「それで、柏木さんによれば、藤花さんが転落する瞬間、微笑みを浮かべているように見えた。まるで、事故が起こることを予期していたかのようだったそうなんだよ」と大野が倉田に言った。 「なるほど、さすがだな……」  倉田はつぶやくようにそう言いながらうなずいた。 「と言いますと?」
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