8人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
そう尋ねる堂島に、倉田はじっと目を注いで答えた。
「実は、私も柏木さんと同じような印象を持っていたんです。迫が下りていることは、足裏の感触で即座にわかったはずなのに、彼女は微笑んだままだった」
「一体どういうことなんでしょう?」
「よくわかりません。もともと謎の多い芸術家でしたが……」
「藤花さんが自殺した可能性については、どうお考えになりますか?」と柏木が尋ねた。
「その類の願望を抱いていたことは確かですが、彼女のようなタイプの芸術家にはありがちなことで、本当に実行に移したのかとなると、考えにくいように思います。そもそも本番中に彼女が迫を下げるなどということは、ほとんど不可能でしょう」
「不躾な質問で恐縮ですが、彼女の交友関係について、夫として不満を持っておいでではありませんでしたか?」
「どう説明したらいいんでしょうね……」
倉田は堂島の問いに苦笑を浮かべながらも、冷静な口調を変えずに答えた。
最初のコメントを投稿しよう!