7人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「ええ。ポスターもすばらしかったし、きっとデザイナーさんのセンスがいいんだろうなって」
翠はそう答えると、柏木も見ることができるように、二人の間の肘掛けの上でパンフレットを開いた。冒頭のページには、古今集収録の詠み人知らずの短歌が一首掲げられていた。
夏虫の 身をいたづらに なすことも ひとつの思ひに よりてなりけり
※夏虫が身を滅ぼしてしまうのも、私を苛んでいるのと同じ、
恋の思いという火のためなのだ。
次のページには御舟の『炎舞』に対する藤花の賛辞があり、出演者、スタッフの紹介がそれに続いた。公演の内容や構成、演出に関する説明は一切なく、舞台はそれ自体で完結しているべきだという、演者の信念がうかがえた。
「古今集に載っているそうだけど、素直でいい歌だね」
「古今集はあまりお好きではないみたいですね」
「技巧が勝ち過ぎているものはちょっとね。万葉好きだった母親の影響かな。紀貫之も、仮名序の出だしや土佐日記は好きなんだけどね」
最初のコメントを投稿しよう!