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柏木はそう言うと、パソコンのキーボードをたたいて、一枚の静止画像を翠に示した。それは転落の瞬間を、照明用の柱に取り付けられたカメラが真上からとらえたもので、背面からその身を奈落の底に投げ出そうとしているかのような体勢で、藤花は陶然とした笑みを浮かべていた。
「これが不慮の事故に遭遇した人の表情だなんて、一体誰が考えるだろう」
「藤花さん、まだ踊り続けているみたいですね」
「でも、彼女が何を考え、どんな気持ちでいたのかということになると、僕にはまったくわからない。倉田さんはわかっているのかもしれないけどね。藤花さんのことを話す時の彼は、夫というよりも、芸術活動の同志という感じだった。何にしても、僕があの時触れたような気がしたものは、もっと客観的に事件の真相を教えてくれるはずのものなんだ。今はとにかくそれを見つけないとね」
「頑張ってくださいね。あ、でも、無理は禁物です」
「そういえば、堂島さんからさっきお目付け役を仰せつかっていたね。心配ないよ。こうして話し相手になってもらえるだけで、いい気分転換になる」
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