炎舞(えんぶ)

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「超音波にストローが共振しているんだ。僕らには聞こえないけれど、かなりの音量だろうね。大野さんが非圧縮の音声を入れてくれていて助かったよ。圧縮フォーマットの音だったら、可聴域(かちょういき)でカットされてしまうから気づけなかった」  柏木はタイムコードをメモすると、マルチ画面を個々のカメラの画像に切り替えて、一つ一つ丹念にチェックしていった。 「あったぞ! これがあの時触れていた〈決定的なもの〉の正体なんだ」  柏木は声を弾ませてそう言うと、画面の奥の方にかろうじて写りこんでいた、篝火のまわりを飛び交う蛾の群れを指差した  翌日の午後七時、柏木は澤村翠とともに新宿御苑の舞台を再び訪れた。彼から連絡を受けて、堂島警部補がもう一度現場検証を実施する決定を下したのだった。 「柏木さん、お待ちしていました。澤村さんもご足労(そくろう)いただきありがとうございます」  二人を舞台上で迎える堂島の傍らには、新宿署の村田巡査部長と、演出家の倉田誠治の姿があった。 「今、大野氏が最後の調整を行っているところです。まもなく始められますよ」
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