炎舞(えんぶ)

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「篝火のまわりを飛んでいる蛾を見ていてください。彼らの飛び方が乱れたら、迫が下りる合図です」  数十秒後、それまでめいめいが円を描くように飛んでいた蛾の群れに突然乱れが生じた。あるものたちは飛ぶことを放棄してぽとりと落下し、またあるものたちは急旋回したり左右に揺れ動くように飛んだりして、(またた)く間に篝火の周囲から姿を消した。 「ここだ」  柏木の言葉を合図に皆の視線が舞台中央に注がれる中で、炎のホログラムの下の迫が、ゆっくりと下降し始めた。 「一体何が起こったんですか?」と大野が尋ねた。 「超音波の作用です。伴奏音楽の中に、迫を作動させる信号がまぎれ込ませてあったんですよ。会場中のスピーカーからあらゆる方向に大音量で流されたから、どれかが迫の超音波センサーに届いたんでしょう」 「あの蛾の動きは?」 「ヒトリガのような夜行性の蛾の多くは、捕食者のコウモリが発する超音波に対して回避行動を取るんです」 「なるほどそういうことか……。しかし、よく気づかれましたね」
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